## ボアンカレの科学と方法から学ぶ時代性
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科学における直観の役割
アンリ・ポアンカレはその著書「科学と方法」の中で、科学における直観の重要性を強調しています。当時の科学界では、論理や実証主義が重んじられ、直観は主観的で不確かなものとみなされていました。しかし、ポアンカレは、真の発見は論理的な推論だけから生まれるのではなく、直観的なひらめきによって導かれると主張しました。彼自身、数学者としての経験から、複雑な問題に取り組む際に、論理的な思考に行き詰まりを感じた後、ふとした瞬間に解決策を閃くことが多々あったといいます。
ポアンカレは、直観を「無意識のうちに働く精神の能力」と定義し、長年の研究や経験によって蓄積された知識や経験が、意識下に沈殿し、複雑に絡み合いながら、新たな発想を生み出す源泉となると考えました。そして、この直観こそが、既存の枠にとらわれず、自由な発想を生み出し、科学を新たな段階へと進歩させる原動力となると説いています。
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科学における選択の重要性
ポアンカレはまた、「科学と方法」の中で、科学における「選択」の重要性についても言及しています。科学者は、常に膨大な量の事実やデータに直面しており、その中から取捨選択を行い、研究対象を絞り込む必要があります。
ポアンカレは、この選択の過程においても、直観が重要な役割を果たすと主張しました。論理的に考えれば、あらゆる可能性を網羅的に検証することが理想的ですが、実際には時間や資源の制約があり、全ての可能性を検討することは不可能です。そこで、科学者は自身の経験や知識、そして直観に基づいて、重要な事実を選び出し、研究を進めていく必要があるのです。
ポアンカレは、この選択の基準となるのは、「調和」や「美しさ」といった、一見すると主観的な要素であると述べています。自然界の法則は、シンプルで美しいものであるという信念に基づき、科学者は、より簡潔で美しい理論を構築するために、事実を選択し、仮説を立てていくのだと説明しました。
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時代性とポアンカレの思想
ポアンカレが「科学と方法」を著したのは20世紀初頭、科学技術が急速に進歩し、社会に大きな影響を与え始めていた時代でした。当時の科学界では、客観性や論理性、実証主義が重視され、科学は絶対的な真理を解き明かすための手段であると信じられていました。
しかし、ポアンカレは、科学における直観や選択の役割を強調することで、科学が決して万能ではなく、人間の主観や価値観から完全に自由になり得ないことを示唆しました。これは、当時の科学観に一石を投じるものであり、科学と社会の関係について深く考えるきっかけを与えたと言えるでしょう。