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ホメロスのイリアスと時間

ホメロスのイリアスと時間

時間の扱い

ホメロスのイリアスでは、時間は直線的かつ客観的なものではなく、物語の展開や登場人物の感情によって伸縮する流動的なものとして描かれています。

具体的な例として、アキレウスの怒りを描いた叙事詩の冒頭部分では、時間の流れは非常にゆっくりとしています。アポロンの祭司クリュセスの娘をアガメムノンが奪ったことから、アポロンの怒りを買い、ギリシア軍に疫病が蔓延します。アキレウスはこの事態を解決するためにアガメムノンに娘の返還を要求しますが、アガメムノンはこれを拒否し、アキレウスの武功を侮辱します。この一連の出来事はわずか数日で起こったことですが、ホメロスの筆致は非常に詳細であり、読者は登場人物たちの感情の動きを克明に追体験することができます。

一方、パトロクロスの死後、アキレウスが戦場に復帰する場面では、時間の流れは非常に速くなります。アキレウスは怒りに燃えてトロイア軍を次々と殺戮し、ヘクトルとの一騎打ちを経て、ついにヘクトルを殺害します。この間、時間の経過はほとんど語られませんが、読者はアキレウスの怒りと悲しみの激しさ、そして戦場の凄惨さを実感することができます。

このように、イリアスにおける時間の扱いは、現代の小説に見られるような客観的なものではありません。ホメロスは、物語の展開や登場人物の感情に応じて時間の流れを自在に操ることで、叙事詩に独特の起伏と緊迫感を与えているのです。

時間の指標

イリアスにおいて、時間の流れを示す具体的な指標は限られています。

* **太陽と月の運行**: 昼と夜、そして日の出と日没は、時間の経過を示す最も一般的な指標です。
* **日数**: 特定の出来事が起こった日数が明示されることがあります。例えば、アキレウスが戦場から離れていた期間は「50日」とされています。
* **季節**: 季節の移り変わりは、時間の流れを示唆する要素として用いられることがあります。例えば、アキレウスの盾には、ブドウの収穫など、農耕作業の様子が描かれており、これは豊穣の季節、すなわち夏から秋にかけての時期を表していると考えられています。

しかし、これらの指標はあくまで断片的に提示されるに過ぎず、物語全体を通して一貫した時間軸を構築することは困難です。

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