## ホッブズのリヴァイアサンを深く理解するための背景知識
ホッブズの生きた時代と社会状況
トーマス・ホッブズ（1588-1679）は、イギリスの政治哲学者であり、近代政治思想の重要な人物です。彼がリヴァイアサンを執筆した17世紀のイギリスは、社会的な激動と政治的な不安定の時代でした。
**宗教改革と宗教戦争の影響**
16世紀初頭に始まった宗教改革は、ヨーロッパ全土に広がり、イギリスもその影響を受けました。ヘンリー8世によるイギリス国教会の設立は、カトリック教会との対立を生み、国内は宗教的に分裂しました。この宗教的な対立は、後に清教徒革命（イングランド内戦）へと発展し、ホッブズの思想にも大きな影響を与えました。
**清教徒革命（イングランド内戦）**
17世紀半ばに起きた清教徒革命は、国王チャールズ1世と議会派の対立が武力衝突に発展した内戦です。この内戦は、宗教的な対立だけでなく、国王の権力と議会の権限をめぐる政治的な対立でもありました。ホッブズは、この内戦を目の当たりにし、社会秩序の崩壊と人間の暴力性を強く認識しました。
**科学革命の影響**
ホッブズは、ガリレオ・ガリレイやウィリアム・ハーベーなどの科学者と交流があり、当時の科学革命の影響を受けていました。彼は、自然現象を機械的な法則によって説明しようとする機械論的な自然観を取り入れ、人間の行動や社会現象についても、科学的な方法で分析しようとしました。
ホッブズ以前の政治思想
ホッブズの政治思想は、それ以前の政治思想、特に古代ギリシャの思想や中世のキリスト教思想から影響を受けつつも、それらとは異なる独自の理論を展開しました。
**古代ギリシャの政治思想**
古代ギリシャの哲学者、プラトンやアリストテレスは、人間の理性と徳を重視し、理想的な国家の姿を追求しました。彼らは、人間は社会的な動物であり、国家は人間の幸福を実現するための自然な共同体であると考えました。
**中世キリスト教の政治思想**
中世のキリスト教思想は、アウグスティヌスなどの神学者によって体系化されました。彼らは、人間は原罪によって堕落した存在であり、神の恩寵によってのみ救済されると考えました。政治においては、教会の権威と国王の権威の関係が重要なテーマでした。
**自然法思想**
中世から近代にかけて発展した自然法思想は、人間の理性によって認識できる普遍的な道徳法則である自然法の存在を主張しました。自然法は、神によって定められたものであり、人間の行動の規範となるものと考えられました。
リヴァイアサンにおけるホッブズの思想
リヴァイアサンは、ホッブズの政治哲学の集大成であり、近代政治思想の古典とされています。この著作でホッブズは、人間の本性、社会契約論、国家の役割など、様々なテーマについて独自の理論を展開しました。
**自然状態と人間の本性**
ホッブズは、国家が存在しない「自然状態」では、すべての人間は平等であり、自己保存と欲望の追求のために自由に行動すると考えました。この状態では、人間は常に死の恐怖に脅かされ、万人の万人に対する闘争の状態に陥るとしました。
**社会契約論**
自然状態から脱却し、平和と安全を確保するために、人々は理性に基づいて社会契約を結び、絶対的な権力を持つ主権者に服従するとホッブズは主張しました。この社会契約によって、個人の権利は制限されますが、生命と安全が保障され、社会秩序が維持されるとしました。
**絶対君主制の正当化**
ホッブズは、社会契約によって成立した国家の主権者は、絶対的な権力を持つべきだと考えました。これは、主権者が分裂したり、権力が弱体化すると、再び自然状態に戻ってしまうことを恐れたためです。ホッブズは、絶対君主制が最も安定した政治体制であると主張しました。
これらの背景知識を踏まえることで、リヴァイアサンの内容をより深く理解し、ホッブズの思想の意義をより的確に評価することができます。
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