ホッブズのリヴァイアサンの話法
ホッブズの修辞法
ホッブズは、自身の主張を明確かつ強力に伝えるために、様々な修辞法を用いています。
まず挙げられるのが、幾何学的な論理展開です。リヴァイアサンは、定義や公理を出発点として、そこから演繹的に議論を展開していくスタイルを取っています。これは、当時の学問分野で支配的であったスコラ哲学の論理展開とは一線を画すものであり、ホッブズの思想の革新性を示すものでもあります。
また、ホッブズは比喩や隠喩を効果的に用いることで、抽象的な概念を具体的にイメージさせ、読者の理解を助けています。例えば、国家を巨大な怪物「リヴァイアサン」に喩えたことはあまりにも有名です。この比喩は、国家の圧倒的な力を印象付けるだけでなく、個人の自由と安全を保障するために国家の権力は不可欠であるというホッブズの主張を雄弁に物語っています。
さらに、ホッブズは聖書を頻繁に引用しますが、それは単なる権威付けのためではなく、当時の読者にとって馴染み深い言葉を用いることで、自身の主張をより分かりやすく伝えようとする意図があったと考えられます。
明晰さと平易さを目指した文体
ホッブズの文体は、当時の学術書にありがちであった難解なラテン語ではなく、英語で書かれている点が特徴です。これは、より多くの人に自分の思想を理解してもらいたいというホッブズの強い意志の表れでした。
また、ホッブズは簡潔で明快な文章を心がけ、可能な限り専門用語を避けています。そのため、リヴァイアサンは当時の哲学書としては比較的読みやすい作品であるとされています。
しかし、ホッブズの文体は決して平坦なものではありません。時には皮肉や反語を交えながら、読者を挑発し、思考を促すような表現も見られます。
読者への語りかけ
ホッブズは、読者に語りかけるような直接的な表現を用いることで、一方的に理論を押し付けるのではなく、読者自身が主体的に思考することを促しています。
例えば、「~を考えてみよう」「~を想像してみてほしい」といった表現は、リヴァイアサンの中で頻繁に登場します。これは、読者を議論に巻き込み、共に思考を深めていくためのホッブズの戦略と言えるでしょう。