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ホッブズのリヴァイアサンに影響を与えた本

ホッブズのリヴァイアサンに影響を与えた本

トゥキディデスの『戦史』

トーマス・ホッブズの傑作『リヴァイアサン』は、西洋の政治思想に大きな影響を与えた作品であり、その中心となる主張は、個人の安全と社会秩序の維持には、絶対的な主権者が必要不可欠であるというものです。ホッブズ自身の経験と、彼が目撃した激動の時代を背景に生まれたこの作品は、さまざまな知的、歴史的源泉から影響を受けています。その中でも、紀元前5世紀のギリシャの歴史家トゥキディデスの『戦史』は、とりわけ大きな影響を与え、ホッブズ独自の政府観と人間の本性に対する理解に貢献しました。

ペロポネソス戦争として知られるアテネとスパルタの戦いを記録した『戦史』は、戦争の生々しい現実と、人間の本性に内在する潜在的な暗部を描いています。トゥキディデスは、戦争の過程で明らかになった政治的、社会的混乱の状況の中で、人間は自己利益、野心、恐怖といった基本的な衝動に突き動かされるようになると主張しました。権力闘争、裏切り、残虐行為が横行する世界では、道徳的考察は容易に脇に追いやられ、社会は混乱と暴力に陥ります。

ホッブズは、トゥキディデスの分析に深く共鳴し、それを自身の17世紀の文脈に当てはめました。イングランド内戦の混乱と残虐行為を目の当たりにし、彼は人間の本性に対する暗澹たる見解を抱き、自然状態では、人間は絶え間ない恐怖と暴力のスパイラルの中に生き、そこでは、最も強く、最も狡猾な者だけが生き残れるのだと考えました。トゥキディデスと同様に、ホッブズは、道徳、正義、社会秩序といった概念は、強力な中央集権的な権力がその施行を保証しない限り、単なる構築物に過ぎないと考えていました。

『戦史』の影響は、『リヴァイアサン』全体に見られる特定の箇所にも表れています。例えば、トゥキディデスは、戦争によって社会の基盤が崩壊した状況下では、人々は伝統的な道徳的制約を無視し、自分たちの行動の結果に対してますます無感覚になると説明しています。ホッブズは、同様の考え方を、自然状態における人間の生活を描写するために用い、「すべての人がすべての人の敵である」場所では、正義も不正義も、善悪もないと主張しました。

さらに、アテネのメロス島征服を描写したトゥキディデスの記述は、ホッブズの政治思想に直接影響を与えた可能性があります。この歴史的なエピソードでは、アテネ人は、中立を維持しようとしたメロスの住民に、冷酷なまでに自分たちの力の論理を提示します。アテネ人は、正義や公正さの考慮は、権力関係の現実の前では無意味であると主張し、メロスの住民に降伏するか、絶滅するかという厳しい選択肢を提示しました。この冷酷な現実政治の描写は、ホッブズに深い影響を与え、彼は国際関係においても、道徳的考慮は、国家の利害を追求するというより強い要請の前では、しばしば後回しにされると認識していました。

ホッブズがトゥキディデスの記述から得た教訓は、彼の政治哲学の核心となりました。彼は、『戦史』に描かれた戦争と人間の残虐行為の記録を見て、人間の本性の暗部を抑え、社会秩序を維持するために、絶対的な主権者が必要不可欠であると確信しました。トゥキディデスと同様、ホッブズは、権力の制約のない行使は、無秩序と暴力をもたらすと考えました。これは、安定した繁栄する社会を確保するために、個人は自らの権利の一部を放棄して、主権者に服従しなければならないと主張した『リヴァイアサン』の主要な論拠となりました。

結論として、『戦史』は、『リヴァイアサン』を形作った重要な影響力でした。戦争の生々しい現実と、人間の本性の暗部についてのトゥキディデスの分析は、ホッブズ自身の暗澹たる人間観と、秩序と安全の必要性に対する彼の信念に共鳴しました。ホッブズは、トゥキディデスの歴史的洞察を自分自身の時代の出来事と結びつけ、権力の集中と絶対的な主権者の必要性に対する説得力のある主張を展開しました。これは、今日まで西洋の政治思想を形作り続けています。

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