ホッファーの大衆運動の主題
ホッファーの描く「大衆運動」とは?
エリック・ホッファーの著書「大衆運動」は、20世紀半ばに書かれた、全体主義運動、宗教運動、ナショナリズム運動といった様々な大衆運動の性質を探求した社会心理学的な著作です。ホッファーは、これらの運動に共通するパターンや心理的なメカニズムを分析し、人々がなぜ、そしてどのようにして、伝統的な社会構造や価値観を覆すような急進的なイデオロギーに惹きつけられるのかを解き明かそうと試みました。
大衆運動への参加の動機:不満と希望の狭間
ホッファーは、大衆運動への参加の根底には、社会における自己の立場に不満を抱く人々の心理があると指摘します。彼は、失業、貧困、差別など、社会的な不平等や不公正によって疎外感や無力感を抱えた人々が、現状を変革する力を大衆運動に見出すと論じます。
しかし、不満だけが大衆運動への参加を促すわけではありません。ホッファーは、人々が現状への不満を抱えているのと同時に、未来への希望や理想を抱いていることも重要だと指摘します。大衆運動は、人々に、より良い社会、より輝かしい未来へのビジョンを提供することで、彼らの希望や理想に訴えかけ、運動への参加を促すのです。
指導者と大衆の関係性:カリスマと追従
ホッファーは大衆運動における指導者の役割を重視し、特にカリスマ性を持った指導者が大衆を魅了し、運動を牽引する力を持つことを強調しています。彼の分析によれば、カリスマ的な指導者は、自信に満ちた態度、明確なビジョン、簡潔なスローガン、そして感情に訴えかける演説を通じて、大衆の不安や不満を希望へと転換し、運動への熱狂的な支持を生み出すと言えます。
大衆運動における「代理の自己」
ホッファーは、「代理の自己」という概念を用いて、大衆運動が個人にもたらす心理的な影響を説明しています。彼は、大衆運動に参加することで、個人は自己のアイデンティティを運動に投影し、運動の成功と自身の価値を同一視するようになると論じます。
つまり、個人は、運動の目標達成を通じて、自己実現や承認欲求を満たそうとするのです。この「代理の自己」という概念は、大衆運動が、個人の心理的な欲求を満たすことで、強力な求心力を持ち得ることを示唆しています。