ホイジンガの中世の秋
騎士道と敬虔さの形式化
ヨハン・ホイジンガの著書「中世の秋」は、14世紀から15世紀のフランスとブルゴーニュ宮廷文化を題材に、中世末期の文化史を描写しています。ホイジンガはこの時代の文化を、中世の「秋」と捉え、没落していく様相を、騎士道、敬虔さ、愛、死などの文化的事象を通して描き出しています。
ホイジンガは、当時の騎士道や敬虔さが、もはや内面的な信念に基づくものではなく、形式化し、虚構的なものになっていたと主張します。華麗な馬上試合や騎士叙任の儀式は、もはや実質的な意味を持たず、単なる見世物と化していたと彼は指摘します。また、宗教的な儀式や信仰行為も、内面的な信仰心からではなく、社会的な義務感や形式的な慣習として行われていたと分析します。
生の様式における遊戯の要素
ホイジンガは、中世後期の人々が、人生のあらゆる側面に「遊戯」の要素を取り入れていたことを指摘します。当時の文学、美術、音楽、そして社会生活全般に、遊戯的な要素が色濃く反映されていたと彼は分析します。
例えば、宮廷恋愛は、一定のルールと儀礼に則った一種のゲームとして捉えられ、騎士たちは貴婦人への愛を表現するために、詩作や歌合戦などの遊戯的な行為に熱中しました。また、戦争や政治においても、騎士道精神に基づく儀礼や形式が重視され、現実的な利益や効率性よりも、名誉や美意識が優先される傾向がありました。
現実と虚構の曖昧化
ホイジンガは、中世後期の人々が、現実と虚構の境界線を曖昧にしていたことを指摘します。当時の文学作品や絵画には、現実と空想が混在しており、人々は幻想の世界に逃避することで、現実の苦難や不安から逃れようとしていたと彼は分析します。
例えば、騎士道物語やロマンス文学は、現実にはあり得ない英雄譚や恋愛物語で溢れており、人々はこれらの物語世界に没頭することで、現実の社会における身分制度や社会不安から一時的に解放されようとしていました。また、宗教的な奇跡や聖人伝なども、現実と虚構の境界線を曖昧にする役割を果たしており、人々は超自然的な出来事や神秘体験に憧憬を抱き、現実を超越した世界に救いを求めていたと言えるでしょう。