ペスタロッチのゲルトルートはいかにその子を教えるかに影響を与えた本
ルソー「エミール」の影響
ペスタロッチの「ゲルトルートはいかにその子を教えるか」は、教育論の先駆的な作品として知られていますが、その思想の背景には、ジャン=ジャック・ルソーの「エミール」の影響が色濃く見られます。「エミール」は、自然主義教育を唱えたルソーの教育論の集大成であり、当時の伝統的な教育観念を根底から覆すものでした。ペスタロッチは、「エミール」に深い感銘を受け、その思想を自らの教育実践に活かそうとしました。
「エミール」でルソーは、子どもは生まれながらにして善であり、その自然な発達を阻害する社会や偏見から隔離して教育すべきだと主張しました。自然の中で、五感をフルに活用し、自発的な活動を通して学ぶことが、子どもの健全な成長にとって重要であると説いています。ペスタロッチもまた、ルソーの主張に共鳴し、子どもの自発性や自然な発達を重視する教育観を育んでいきました。
「ゲルトルートはいかにその子を教えるか」において、ペスタロッチは、母親ゲルトルートが、日常生活の中で子どもたちに自然な形で読み書きや計算を教え、道徳的な心を育んでいく様子を描いています。これは、ルソーが「エミール」で提示した、自然な環境の中で行われる教育の具体例を示したものと言えるでしょう。
ただし、ペスタロッチはルソーの思想をそのまま受け入れたのではなく、独自の解釈を加えています。例えば、ルソーは子どもの社会からの隔離を主張しましたが、ペスタロッチは、社会とのつながりの中でこそ、真の教育が実現されると考えました。また、ルソーは女性に対する教育に否定的でしたが、ペスタロッチは、女性こそが家庭における教育の中心的な役割を担うべきだと主張しました。
このように、「ゲルトルートはいかにその子を教えるか」は、「エミール」の影響を受けながらも、ペスタロッチ独自の教育観が反映された作品となっています。そして、その根底には、すべての子どもに等しく教育を受ける権利があり、子どもたちは生まれながらにして学ぶ力を持っているという、ルソーと共通の信念が流れていると言えるでしょう。