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ベーコンのノヴム・オルガヌムを深く理解するための背景知識

ベーコンのノヴム・オルガヌムを深く理解するための背景知識

アリストテレスの論理学とスコラ哲学

フランシス・ベーコン(1561-1626)は、近代科学の父とも呼ばれるイギリスの哲学者であり、政治家でもありました。彼の主著である『ノヴム・オルガヌム』(新機関、1620年)は、それまでの学問、特にアリストテレスの論理学とそれに基づくスコラ哲学を批判し、新しい科学的方法を提唱した書物として知られています。

アリストテレスの論理学は、演繹法を重視していました。演繹法とは、すでに知られている一般的な原理から、具体的な個別の事柄について結論を導き出す推論方法です。例えば、「すべての人は死ぬ」という一般的な原理と「ソクラテスは人である」という具体的な事柄から、「ソクラテスは死ぬ」という結論を導き出すのが演繹法です。アリストテレスは、この演繹法を用いて、様々な自然現象を説明しようとしました。

中世ヨーロッパでは、アリストテレスの哲学は、キリスト教神学と結びつき、スコラ哲学として発展しました。スコラ哲学は、アリストテレスの論理学を用いて、神の存在や世界の創造など、神学的な問題を論理的に説明しようとしました。しかし、スコラ哲学は、現実世界の観察や実験を軽視し、アリストテレスの権威に盲目的に従う傾向がありました。

ベーコンは、スコラ哲学のこのような方法を批判しました。彼は、スコラ哲学が現実世界の観察や実験を軽視しているため、真実に到達することができないと考えたのです。ベーコンは、スコラ哲学者がアリストテレスの著作を鵜呑みにし、そこから演繹によって結論を導き出すだけで、実際に自然を観察し、実験を行うことを怠っていることを指摘しました。

ルネサンスと科学革命

ベーコンが活躍した時代は、ルネサンスと呼ばれるヨーロッパ文化の変革期でした。ルネサンスは、古代ギリシャ・ローマの文化を復興しようとする運動であり、中世のスコラ哲学に対する批判と、人間理性への信頼の高まりが特徴でした。

ルネサンス期には、コペルニクス、ガリレオ、ケプラーといった科学者たちが、天動説を否定し、地動説を主張しました。これは、それまでの宇宙観を覆す革命的な出来事でした。また、解剖学、生理学、植物学など、様々な分野で新しい発見がなされ、科学は急速に発展していきました。

ベーコンは、このようなルネサンスの精神を受け継ぎ、新しい科学的方法を提唱しました。彼は、アリストテレスの演繹法ではなく、帰納法を重視しました。帰納法とは、個々の具体的な事柄を観察し、実験することによって、一般的な法則を導き出す推論方法です。

ベーコンは、帰納法を用いることで、自然界の真実に到達できると考えました。彼は、自然を理解するためには、まず自然を注意深く観察し、実験を行う必要があると主張しました。そして、その観察や実験の結果から、一般的な法則を導き出すべきだとしました。

ベーコンの「イドラ」論

ベーコンは、人間の認識を妨げるものとして、「イドラ」(idola、幻像)という概念を提唱しました。イドラには、人間の心に生まれつき備わっている「種族のイドラ」、個々人の経験や教育によって形成される「洞窟のイドラ」、言葉によって生じる誤解である「市場のイドラ」、哲学や学説によって生じる偏見である「劇場のイドラ」の4種類があります。

ベーコンは、これらのイドラが人間の認識を歪め、真実に到達することを妨げると考えました。彼は、これらのイドラを克服し、偏見のない客観的な目で自然を観察することが、科学にとって重要であると主張しました。

ベーコンの帰納法

ベーコンは、帰納法を、単なる観察や実験の積み重ねではなく、一定の手順に従って行うべきだと考えました。彼は、帰納法を3つの段階に分けました。

第一段階は、「存在と不在の表」を作成することです。これは、ある現象が現れる場合と現れない場合を比較し、その現象の原因となるものを探るための表です。

第二段階は、「程度の表」を作成することです。これは、ある現象が強く現れる場合と弱く現れる場合を比較し、その現象の原因となるものの強弱を探るための表です。

第三段階は、「排除法」を用いることです。これは、第一段階と第二段階で得られた情報を元に、現象の原因となる可能性のあるものを一つずつ排除していき、最終的に真の原因を特定する方法です。

ベーコンは、この3つの段階を踏むことで、確実に真実に到達できると考えました。

ベーコンの科学観

ベーコンは、科学の目的は、単に自然を理解することではなく、自然を人間の役に立てることであると考えました。彼は、科学によって人間の生活を豊かにし、社会を発展させることができると信じていました。

ベーコンは、科学の発展には、国家による支援が必要であるとも考えました。彼は、科学研究のための機関を設立し、科学者を育成することを提唱しました。

ベーコンの思想は、近代科学の発展に大きな影響を与えました。彼の帰納法は、近代科学の方法論の基礎となり、彼の科学観は、科学技術の発展を促す原動力となりました。

『ノヴム・オルガヌム』は、これらの背景知識を踏まえて読むことで、より深く理解することができます。

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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。

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