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ベーコンの『ノヴム・オルガヌム』と言語

## ベーコンの『ノヴム・オルガヌム』と言語

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「イドラ」と誤謬を生み出す言語

フランシス・ベーコンの主著『ノヴム・オルガヌム』(1620年)は、従来の論理学に代わる新たな科学的方法論を提示した書として知られています。ベーコンはこの書の中で、人間が真理認識に至るためには、様々な障害を取り除く必要があると主張しました。彼が特に問題視したのが、「イドラ」と呼ぶ、人間が生まれながらに抱く偏見や先入観です。

イドラには、種族のイドラ、洞窟のイドラ、市場のイドラ、劇場のイドラという四つの種類があります。このうち、市場のイドラは、言語の誤用やコミュニケーションの不完全さから生じる誤謬を指します。ベーコンは、言葉は本来、事物の正確な表現であるべきだと考えました。しかし、現実には、言葉は曖昧であったり、多義的であったりするため、しばしば誤解や混乱を招きます。

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ベーコンの言語観と科学的方法

ベーコンは、市場のイドラの影響を排除するために、言語の役割を限定しようとしました。彼は、科学においては、観察や実験によって得られた事実を正確に記録し、伝達することが重要だと考えました。そのため、解釈や推測を交えた曖昧な表現を避け、可能な限り客観的で明確な言語を用いるべきだと主張しました。

『ノヴム・オルガヌム』の中で提示された帰納法も、言語の役割を最小限に抑え、観察事実から直接法則を導き出すことを目的としています。ベーコンは、言語はあくまでも思考の道具であり、それ自体が真理を保証するものではないことを強調しました。

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ベーコンの思想における言語の限界と可能性

ベーコンは、言語の不完全さを認識していた一方で、それがコミュニケーションや知識の伝達に不可欠なものであることも認めていました。彼は、科学者は共通の言語を用いることで、互いの観察結果を共有し、協力して研究を進めることができると考えました。

ベーコンの言語に対する複雑な態度は、『ノヴム・オルガヌム』の記述にも表れています。彼は、修辞的な表現を用いて自らの主張を効果的に伝えようとする一方で、可能な限り明確で簡潔な言葉遣いを心がけました。

ベーコンの思想は、言語の持つ力と限界を同時に認識することの重要性を示唆しています。言語は、誤謬を生み出す可能性を孕んでいると同時に、人間が世界を理解し、他者と共有するための不可欠なツールでもあるのです。

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