ベンサムの道徳と立法の諸原理序説を読む
序論
ジェレミー・ベンサムの『道徳と立法の諸原理序説』は、功利主義の倫理哲学の基礎を築いた重要な著作です。1780年に執筆され、1789年に出版された本書は、道徳と法律の両方の領域において、人間の行動を評価するための体系的な枠組みを提供することを目的としています。ベンサムは、人間の行動の指針となるべき唯一の原理は、「最大多数の最大幸福」であると主張しています。
快楽と苦痛の原則
ベンサムの功利主義の中心には、「快楽と苦痛の原則」があります。彼は、人間は本質的に快楽を求め、苦痛を避けるように動機づけられていると主張しています。彼の考えでは、ある行動の道徳的価値は、それが生み出す快楽の量と苦痛の量によって判断されるべきです。快楽が苦痛を上回る行動は道徳的に正しいとされ、逆に苦痛が快楽を上回る行動は道徳的に間違っているとされます。
功利計算
ベンサムは、異なる行動の道徳的価値を測定するための「功利計算」という方法を提案しました。この計算では、ある行動から生じる快楽と苦痛の量を、その強度、持続時間、確実性、近接性、多産性、純粋性、範囲などの要素に基づいて定量化しようとします。これらの要素を考慮することで、ベンサムは、異なる行動の相対的な道徳的価値を客観的に評価できると考えました。
立法への応用
ベンサムは、彼の功利主義の原則は、法律や社会政策の分野にも適用できると考えていました。彼は、政府の目標は、市民の幸福を最大化することであるべきだと主張しました。法律や政策は、最大多数の人々に最大の幸福をもたらすように設計されるべきです。
影響と批判
『道徳と立法の諸原理序説』は、倫理学、法哲学、政治思想に多大な影響を与えました。ベンサムの功利主義は、ジョン・スチュアート・ミルなど、後続の思想家に大きな影響を与え、現代の倫理学における主要な理論の一つとなっています。しかし、彼の功利主義は、個人の権利の軽視、快楽の質の無視、功利計算の実際上の困難さなど、様々な批判も受けてきました。