## ベルクソンの創造的進化を深く理解するための背景知識
1.19世紀後半の知的状況
ベルクソンの創造的進化は、19世紀後半のヨーロッパにおける知的状況を背景に理解する必要があります。この時期は、科学、特にダーウィンの進化論の影響が大きく、機械論的な世界観が支配的でした。機械論とは、世界を機械のように、因果関係によって決定されたものとして捉える考え方です。ダーウィンの進化論も、自然選択というメカニズムによって生物が進化すると説明し、この機械論的な世界観を補強しました。
しかし、一方で、機械論的な世界観では説明できない人間の意識や自由、創造性といった問題に対する関心も高まっていました。例えば、心理学においては、ヴントを中心とした実験心理学が発展しましたが、意識を要素に分解して分析しようとするその手法には限界があることも認識されていました。また、哲学においては、生の哲学と呼ばれる、生命や意識を直接的に捉えようとする流れが生まれつつありました。
2.ベルクソンの哲学的立場
ベルクソンは、こうした知的状況の中で、機械論的な世界観を批判し、生命や意識、創造性を重視する独自の哲学を展開しました。彼の哲学は、直観主義、生命哲学、時間論といったキーワードで特徴づけられます。
**直観主義**とは、知性による分析的な認識ではなく、直観によって生命や意識を直接的に把握しようとする立場です。ベルクソンは、知性は実用的な目的のために空間の中に事物や出来事を固定して分析する能力であるとし、生命や意識のような流動的なものを捉えるには不適切だと考えました。
**生命哲学**とは、生命を物質とは異なる独自の原理によって説明しようとする立場です。ベルクソンは、生命を「エラン・ヴィタール」(生命の躍動)という概念で表現し、物質的な進化とは異なる、創造的で自由な進化の力として捉えました。
**時間論**は、ベルクソンの哲学において重要な位置を占めます。彼は、物理学的な時間、すなわち時計によって計測される均質で空間化された時間を批判し、「純粋持続」という独自の時間を提唱しました。純粋持続とは、意識の内部で経験される、質的に変化し、不可逆的に流れる時間です。
3.進化論への批判
ベルクソンは、ダーウィンの進化論を生命の進化を説明する上で不十分だと考え、独自の進化論を展開しました。彼が特に批判したのは、進化を外的要因である自然選択のみによって説明しようとする点です。ベルクソンは、進化を駆り立てる内的な力、すなわち「エラン・ヴィタール」を重視しました。
また、ダーウィンが進化を偶然の変異の積み重ねとして捉えていたのに対し、ベルクソンは進化には方向性があると主張しました。彼は、進化は単純なものから複雑なものへ、無機物から有機物へ、本能から知性へと向かう傾向があるとしました。
4.創造的進化の概念
ベルクソンの進化論の中心概念は、「創造的進化」です。創造的進化とは、「エラン・ヴィタール」によって駆動される、予測不可能で新しいものを生み出す進化です。これは、機械論的な進化観とは全く異なるものであり、生命の進化を創造的なプロセスとして捉える革新的な考え方でした。
ベルクソンは、進化の過程を「分岐」と「多様化」によって説明しました。エラン・ヴィタールは、あたかも川の流れが分岐していくように、様々な方向へ進化を促します。その結果、生物は多様な形態へと進化していくことになります。
また、ベルクソンは、進化には目的や目標がないとしました。進化はあらかじめ決められた方向に向かって進むのではなく、絶えず新しい可能性を生み出しながら進んでいく創造的なプロセスなのです。
5.関連する思想家
ベルクソンの創造的進化を理解するためには、同時代の思想家との関連性も把握しておく必要があります。
**ニーチェ**は、生命を肯定し、創造性を重視した点でベルクソンと共通点があります。しかし、ニーチェは生命の力として「力への意志」という概念を用い、ベルクソンの「エラン・ヴィタール」とは異なる独自の生命観を持っていました。
**ジェームズ**は、アメリカのプラグマティズムの代表的な思想家で、経験や意識の流れを重視する点でベルクソンと親近性があります。ベルクソンの純粋持続の概念は、ジェームズの「意識の流れ」の概念に影響を与えたと考えられています。
**ド・フリース**は、突然変異説を唱えた生物学者で、ダーウィンの漸進的な進化論を批判した点でベルクソンと共通点があります。しかし、ド・フリースは突然変異を偶然の現象として捉えており、ベルクソンは進化の内的な力であるエラン・ヴィタールを重視した点で異なります。
これらの思想家との比較を通して、ベルクソンの創造的進化の独自性と革新性をより深く理解することができます。
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