## ベルクソンの創造的進化と言語
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ベルクソンの進化論における「生の躍動」
アンリ・ベルクソンは、その代表作『創造的進化』(1907年)において、独自の進化論を展開しました。ベルクソンは、ダーウィンの自然選択説が進化のメカニズムを十分に説明しているとは考えていませんでした。彼は、進化を駆動するのは、盲目的な偶然ではなく、生命自身の内在的な力、「生の躍動」 (élan vital) であると主張しました。
「生の躍動」は、絶えず創造的な活動を続け、新たな形態と多様性を生み出す根源的なエネルギーです。ベルクソンによれば、進化は、この「生の躍動」が物質という抵抗に遭遇し、それを乗り越えようとする過程として理解されます。
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知性と直観:生の認識における二つの道
ベルクソンは、人間の認識能力にも二つの側面があるとしました。一つは「知性」(intellect) であり、もう一つは「直観」(intuition) です。
「知性」は、分析的・論理的な思考を特徴とし、実用的な目的のために世界を概念や記号を用いて捉えます。一方、「直観」は、知性が作り出した概念や記号の枠組みを超え、「生の躍動」そのものを直接的に把握しようとする認識能力です。ベルクソンは、「直観」こそが進化の真の姿、つまり「持続」を捉えることができると考えました。
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言語の限界と「生の躍動」の表現
ベルクソンは、言語が本質的に「知性」に基づいたものであると考えました。言語は、世界を静止した概念に切り分け、それを記号によって表現します。しかし、現実の生命は、絶えず変化し続ける「持続」であり、言語によって完全に捉えることはできません。
「生の躍動」は、まさにこの言語では捉えきれない「持続」と変化そのものです。そのため、ベルクソンは、「生の躍動」を完全に表現することは不可能であると認めつつも、比喩やイメージを用いることで、その本質に迫ろうとしました。
例えば、ベルクソンは、「生の躍動」を「手榴弾の爆発」や「湧き上がる泉」といったイメージを用いて説明しました。これらのイメージは、「生の躍動」の創造的な力や、絶えず変化し続ける様態を表現しようとする試みです。
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芸術と「生の躍動」の表現
ベルクソンは、言語が持つ限界を認識した上で、芸術、特に文学や音楽が「生の躍動」を表現する上で重要な役割を果たすと考えました。芸術は、言語のように概念や記号に頼ることなく、「直観」を通して捉えた「生の躍動」を、より直接的に表現することができると考えたのです。
例えば、音楽は、時間芸術として、音の「持続」と流れを直接的に表現することができます。また、文学、特に詩や小説は、比喩やイメージ、リズムなどを駆使することで、言語の限界を超え、「生の躍動」を感じさせる表現を生み出すことができるとベルクソンは考えました。