# ベネディクトの文化の型を深く理解するための背景知識
文化人類学の黎明期
ベネディクトの文化の型を理解するには、まず彼女が活躍した時代背景、すなわち文化人類学の黎明期について知る必要があります。20世紀初頭、文化人類学は西洋中心的な進化主義的視点から脱却し、それぞれの文化を独自の価値観や規範を持つ独立した体系として捉える「文化相対主義」へと移行しつつありました。フランツ・ボアスに代表されるアメリカ文化人類学派はこの流れを牽引し、フィールドワークに基づいた詳細な民族誌的研究を通じて、多様な文化の記述と理解を目指しました。ベネディクトもボアスの教えを受け、この学派の中心人物として活躍しました。
文化とパーソナリティの関係性
ベネディクトは文化を「人格 writ large(拡大された人格)」と捉え、個人のパーソナリティ形成に文化が大きな影響を与えると考えました。文化は個人の行動や思考様式を規定するだけでなく、感情や価値観、世界観までも形作るとしました。これは、それまでの文化人類学ではあまり注目されていなかった視点であり、文化とパーソナリティの関係に着目した心理人類学という新たな分野を開拓するきっかけとなりました。
文化の統合性とパターン
ベネディクトは、それぞれの文化は独自の「型」あるいは「パターン」を持っており、その文化を構成する様々な要素(宗教、芸術、慣習、社会構造など)は、この型に沿って統合されていると考えました。この考え方は、ゲシュタルト心理学の影響を受けており、全体は部分の総和以上のものであるという全体論的な視点に立っています。文化の型は、その文化における理想的な人格像や行動様式を規定し、人々はその型に沿って社会化され、文化に適応していくと考えました。
代表的な文化の型の研究
ベネディクトは、文化の型を具体的に示すために、いくつかの文化の民族誌的研究を行いました。特に有名なのは、アメリカ先住民のプエブロ族、ドーブー族、クワキウトル族を比較分析した研究です。彼女は、これらの文化をそれぞれ「アポロ型」「パラノイア型」「ディオニュソス型」と名付け、それぞれの文化に特徴的な行動様式や価値観を分析しました。これらの研究は、文化の多様性を示すとともに、文化の型が人々の行動や思考にどのように影響を与えるかを示す具体例となりました。
「菊と刀」における日本文化の分析
ベネディクトの代表作である「菊と刀」では、第二次世界大戦中に敵国であった日本の文化を分析しています。彼女は、日本文化を「恥の文化」と特徴付け、名誉や体面を重んじる日本人の行動様式を分析しました。また、日本文化における「義理」「恩」「忠誠」といった概念や、階層的な社会構造、自己犠牲の精神などについても詳細な分析を行いました。この研究は、当時、謎に包まれていた日本文化を理解する上で重要な役割を果たし、戦後の日米関係にも大きな影響を与えました。
ベネディクトの研究に対する批判
ベネディクトの文化の型という概念は、文化を単純化しすぎているという批判もあります。文化は非常に複雑なものであり、一つの型で捉えることはできないという指摘です。また、彼女の研究は、限られた民族誌的データに基づいており、一般化するには十分ではないという批判もあります。さらに、文化の型という概念は、文化を固定的なものと捉え、文化の変化や多様性を軽視しているという批判もあります。
現代におけるベネディクトの文化の型の意義
上記の批判はあるものの、ベネディクトの文化の型という概念は、文化の多様性と、文化が個人のパーソナリティ形成に与える影響を理解する上で重要な視点を提供しています。現代社会は、グローバル化の影響により、様々な文化が接触し、相互に影響を与え合っています。このような状況において、異なる文化の価値観や行動様式を理解することは、異文化理解を深め、文化間の摩擦を軽減するために不可欠です。ベネディクトの文化の型という概念は、文化の違いを理解するための枠組みを提供し、現代社会における異文化理解を促進する上で重要な役割を果たしています。
Amazonで文化の型 の本を見る
読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。