## ベネディクトの文化の型の周辺
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文化相対主義の先駆的研究
ルース・ベネディクトは、アメリカの文化人類学者で、その著書「文化の型」(Patterns of Culture, 1934年) において、文化を「学習された行動様式」と定義し、各文化は独自の価値観や規範、行動様式を持つことを主張しました。これは、自文化中心主義的な見方を排し、それぞれの文化を独自の脈絡の中で理解しようとする、文化相対主義の考え方の基礎となりました。
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文化の型:アポロ型、ディオニュソス型、パラノイア型
ベネディクトは「文化の型」の中で、文化を統合する原理として、ギリシャ神話の太陽神アポロンと酒神ディオニュソスを対比させ、さらに独自の「パラノイア型」を加えた3つの類型を用いて分析しました。
* **アポロ型**: 調和と節度を重視し、理性的で穏やかな行動様式を特徴とする文化。
* **ディオニュソス型**: 感情の解放や陶酔、神秘体験を重視し、情熱的で激しい行動様式を特徴とする文化。
* **パラノイア型**: 猜疑心が強く、他者への不信や敵意に基づいた行動様式を特徴とする文化。
ベネディクトは、この3つの型を具体的な文化に当てはめ、それぞれの文化における行動様式や価値観を分析しました。例えば、プエブロ族をアポロ型、クワキウトル族をディオニュソス型に分類しました。
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「菊と刀」における日本文化の分析
ベネディクトは、第二次世界大戦中に日本の国民性分析に従事し、その成果を「菊と刀」(The Chrysanthemum and the Sword, 1946年) として発表しました。この著書では、日本文化を「恥の文化」と位置づけ、対人関係における体面や名誉を重視する行動様式を分析しました。
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ベネディクトの文化の型への批判
ベネディクトの文化の型は、文化相対主義的な視点を開拓した一方で、以下のような批判も指摘されています。
* **文化の類型化の単純化**: 複雑な文化を3つの型に分類することは、文化の多様性を過度に単純化しているという批判があります。
* **文化の固定化**: 文化は常に変化するものであり、特定の型に固定的に当てはめることはできないという指摘があります。
* **データの偏り**: ベネディクトの分析は、限られた数の文化に基づいており、そのデータの偏りが指摘されています。
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現代におけるベネディクトの文化の型の意義
ベネディクトの文化の型は、その後の文化人類学や社会学に大きな影響を与え、文化相対主義の普及に貢献しました。現代においても、異文化理解の重要性が高まる中で、それぞれの文化を尊重し、多様な価値観を理解するための基礎として、その考え方は重要な意味を持ち続けています。