## ヘーゲルの精神現象学の選択
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意識の章における「感覚的確信」の選択
ヘーゲルは『精神現象学』の冒頭で、最も素朴な認識形態である「感覚的確信」を取り上げます。感覚的確信とは、目の前にあるものをそのまま受け入れる、直接的な認識のあり方です。例えば、「これはリンゴだ」と感覚的に確信することは、対象を媒介なしに捉えているように思えます。
しかしヘーゲルは、感覚的確信が孕む矛盾を指摘します。感覚的確信は「純粋なこれ」を捉えようとするものの、言語化しようとすると、「これ」はすでに個別的なものではなく、「あるもの」という普遍的なものになってしまいます。また、感覚的確信は「今」という時と「ここ」という場所への依存から逃れられません。 異なる時間、異なる場所で同じ対象を認識しようとすると、感覚内容は変化してしまいます。 つまり、感覚的確信は、普遍性と個別性、時間と場所の矛盾を抱え込んでおり、真の認識とは言い難いのです。
ヘーゲルは、このように感覚的確信の自己矛盾を露わにすることで、より高次の認識へと進む必要性を示唆します。