ヘーゲルの法哲学要綱の関連著作
プラトンの「国家」
ヘーゲルはプラトンの「国家」を、西洋哲学における最初の体系的な政治哲学の試みとして高く評価しました。「国家」は、正義、法、理想国家について深く考察しており、ヘーゲルの法哲学にも大きな影響を与えました。特に、正義を個人の徳と社会の調和として捉える考え方は、ヘーゲルの倫理思想の基礎となっています。
プラトンは、魂の三つの部分（理性、気概、欲望）と、国家の三つの階級（哲王、守護者、生産者）を対応させ、正義を各部分が自己の役割を果たすことによって実現すると考えました。ヘーゲルもまた、個人の自由と社会秩序の調和を重視しましたが、プラトンとは異なり、歴史的な発展過程の中で実現すると考えました。
アリストテレスの「政治学」
アリストテレスは、師プラトンとは異なり、経験的な観察に基づいて政治を考察しました。「政治学」は、様々な政体形態を分析し、それぞれの長所と短所を論じています。ヘーゲルは、アリストテレスの現実的な政治観から多くの影響を受けました。
アリストテレスは、人間はポリス（都市国家）を形成して政治生活を送ることを本性としていると考えました。そして、法治主義の重要性を説き、法の支配によってのみ、個人の自由と社会の秩序が保障されると主張しました。ヘーゲルもまた、法を自由の現実態として捉え、アリストテレスの法思想を継承しました。
ホッブズの「リヴァイアサン」
トマス・ホッブズの「リヴァイアサン」は、社会契約論を基礎とした近代国家論の古典です。ホッブズは、自然状態における人間の生活は「万人の万人に対する闘争」であり、国家は個人の安全を保障するために必要な絶対的な権力を持つと主張しました。
ヘーゲルは、ホッブズの国家観を批判的に継承しました。ヘーゲルは、ホッブズが国家の起源を個人の利害追求に求めすぎたとし、国家は単なる契約の結果ではなく、倫理的な共同体であると主張しました。しかし、国家が個人の権利を保障する上で重要な役割を果たすという点では、ホッブズと共通しています。
ルソーの「社会契約論」
ジャン＝ジャック・ルソーの「社会契約論」もまた、社会契約論に基づいた国家論です。ルソーは、自然状態における人間は自由で平等であったが、私有財産の発生によって不平等が生じたと考えました。そして、社会契約によって一般意志に基づく国家を設立し、個人の自由と平等を実現すべきだと主張しました。
ヘーゲルは、ルソーの自由と平等に対する情熱を高く評価しましたが、ルソーが感情や意志を過度に重視しすぎていると批判しました。ヘーゲルは、真の自由は理性に基づいたものであり、国家は単なる個人の意志の集合体ではなく、倫理的な理念を実現する存在であると主張しました。
カントの「道徳形而上学」
イマヌエル・カントは、道徳法則を人間の理性に基づいて基礎づけようとしました。「道徳形而上学」において、カントは、「汝の意志の máxima が、常に同時に普遍的な立法の原理となるように行為せよ」という定言的命法を提示し、道徳的な行為の基準を示しました。
ヘーゲルは、カントの道徳哲学から大きな影響を受けました。特に、道徳法則を個人の主観的な感情ではなく、普遍的な理性に基づいて基礎づけようとした点は、ヘーゲルの倫理思想の核心をなすものです。しかし、ヘーゲルは、カントの道徳哲学は抽象的で形式主義に陥っていると批判し、具体的な歴史的な文脈の中で道徳を捉えることの重要性を強調しました。