ヘーゲルの歴史哲学講義に影響を与えた本
ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー『人類史の哲学における観念』
ヨハン・ゴットフリート・ヘルダーの『人類史の哲学における観念』(1784-1791)は、ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲルの歴史哲学に大きな影響を与えた重要な著作です。ヘルダーは、歴史を理性的なプロセスとしてではなく、有機的な成長と発展のプロセスとして捉えるという、当時としては革新的な見解を提示しました。
ヘルダーにとって歴史とは、文化や社会が独自の精神、すなわち「フォルクガイスト」に基づいて形成されていく過程でした。彼は、それぞれの文化や時代には、独自の価値観、信念、慣習があり、それらは外部からの影響ではなく、内発的な要因によって形作られると主張しました。この考え方は、ヘーゲルの歴史における精神の自己展開という概念に大きな影響を与えました。
ヘルダーはまた、歴史は進歩と衰退の周期的なプロセスであると主張しました。彼は、それぞれの文化や文明は、誕生、成長、成熟、衰退というライフサイクルを経ると考えました。この考え方は、ヘーゲルの弁証法的な歴史観、すなわち、テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼという対立と統合のプロセスを通じて歴史が進展するという考え方に影響を与えた可能性があります。
ヘルダーの歴史観は、啓蒙主義の普遍主義的な歴史観に対する批判として読むこともできます。啓蒙主義の思想家たちは、理性に基づいた普遍的な進歩という概念を信奉していました。しかし、ヘルダーは、それぞれの文化や時代には独自の価値観や目標があると主張し、普遍的な進歩という概念を否定しました。
ヘーゲルは、ヘルダーの歴史観の多くの要素を自身の哲学に取り入れましたが、同時に批判的な立場も示しました。特に、ヘルダーの相対主義的な歴史観、すなわち、それぞれの文化や時代には独自の価値観があり、それらを共通の尺度で評価することはできないという考え方には、ヘーゲルは反対しました。
ヘルダーの『人類史の哲学における観念』は、ヘーゲルの歴史哲学の形成に大きな影響を与えた重要な著作です。ヘルダーの歴史観は、ヘーゲルに歴史を精神の自己展開という観点から捉えるための枠組みを提供しました。