## ヘルダーの言語起源論の評価
### ヘルダーの主張
ヨハン・ゴットフリート・ヘルダーは、1772年に発表した論文「言語の起源に関する考察」の中で、言語が人間に固有の能力であると主張しました。彼は、言語が神によって与えられたという当時の一般的な見解に反対し、人間が自身の理性と経験を通して言語を創造したと論じました。
### ヘルダーの論拠と影響力
ヘルダーは、動物のコミュニケーションと人間の言語を比較し、両者の間に質的な違いがあると指摘しました。動物のコミュニケーションは本能的なものであり、限られた数の信号しか伝えられないのに対し、人間の言語は創造的で、無限の数の思想や感情を表すことができると彼は主張しました。また、ヘルダーは、言語が思考と密接に関係しており、言語の発生が人間の認知能力の発達に不可欠であったと論じました。
ヘルダーの言語起源論は、当時の言語学に大きな影響を与えました。彼の著作は、言語が自然現象として研究されるべきであるという考え方を広め、19世紀の比較言語学の発展に貢献しました。
### ヘルダーの言語起源論への批判
ヘルダーの言語起源論は、画期的ではあったものの、いくつかの点で批判されています。
* 第一に、ヘルダーは言語の起源を説明するための具体的な証拠をほとんど提示していません。彼の主張は主に哲学的な考察に基づいており、経験的な裏付けに欠けています。
* 第二に、ヘルダーは言語の進化をあまりにも単純化しすぎていると批判されています。現代の言語学では、言語は長い時間をかけて徐々に進化してきたと考えられており、ヘルダーが想定したような、短期間での劇的な変化は起こりえないと考えられています。
### その後の言語起源論への影響
ヘルダーの言語起源論は、その後の言語学者たちに多くの課題を突きつけました。言語の起源を科学的に解明することは非常に困難な作業ですが、現代の言語学、進化生物学、神経科学などは、この謎を解き明かすために協力して研究を進めています。