## ヘルダーの言語起源論の周辺
ヘルダーの生きた時代背景
ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー(Johann Gottfried Herder, 1744-1803)は、ドイツ啓蒙主義の末期から、古典主義を経てロマン主義へと移り変わる激動の時代を生きた人物です。彼の思想は、理性と規範を重視する啓蒙主義の思潮と、感情や歴史、民族性を重視するロマン主義の思潮の両方に影響を受けて形成されました。
言語起源論が執筆された18世紀の言語観
ヘルダーの時代、言語は神が創造した完全な体系であり、人間の堕落によって多様になったという見方が一般的でした。これは聖書の創世記におけるバベルの塔の物語に根ざした考え方です。言語の起源を巡っては、神がアダムに名前を付けさせたという聖書の記述に基づいた議論が盛んに行われていました。
ヘルダーの言語起源論
ヘルダーは1772年に発表した『言語の起源について』の中で、当時の支配的な言語観を批判し、人間自身の内面的な能力によって言語が生まれたという独自の説を展開しました。彼は、人間が動物と異なるのは「反省」(Reflexion)の能力を持つ点にあり、この能力によって人間は自分自身や周囲の世界を意識し、思考することが可能になったと主張しました。そして、この「反省」の能力こそが言語を生み出した源泉であるとヘルダーは考えました。
ヘルダーの言語思想の特徴
ヘルダーの言語思想は、以下のような特徴を持つ点で、従来の言語観とは一線を画していました。
* **言語の自然発生説**: ヘルダーは、言語は神によって与えられたものではなく、人間が自然に生み出したものであると主張しました。
* **言語の多様性の肯定**: ヘルダーは、言語の多様性は人間の思考の多様性を反映したものであり、むしろ積極的に評価されるべきだと考えました。
* **言語と言 thought の密接な関係**: ヘルダーは、言語と thought は不可分に結びついており、言語は thought を形成する上で重要な役割を果たすと考えました。
ヘルダーの言語起源論の影響
ヘルダーの言語起源論は、発表当時は大きな反響を呼びませんでした。しかし、19世紀に入るとロマン主義の台頭とともに再評価され、ヴィルヘルム・フォン・フンボルトなど、後の言語学者たちに多大な影響を与えることになります。彼の思想は、言語学が独立した学問分野として確立していく上で重要な役割を果たしたと言えるでしょう。