プーシキンの大尉の娘の対称性
プーシキンの大尉の娘における時間と構造の対称性
プーシキンの「大尉の娘」は、一見単純な物語構造の中に、注意深く配置された対称的な要素が数多く見られます。 この対称性は、時間の流れと物語の構成という2つの主要な側面に現れています。
まず、時間の流れにおける対称性を見てみましょう。 物語は、主人公ピョートル・グリニョーブが、父親の命令で軍務につくために故郷を離れるところから始まります。 そして物語の中盤、プガチョフの反乱に巻き込まれたグリニョーブは、運命のいたずらによって、かつて自分が親切にしたプガチョフ自身に命を救われます。 その後、グリニョーブは再び故郷に戻り、物語は終結へと向かっていきます。 このように、故郷を出発し、反乱という波乱を経て再び故郷へ戻るという、グリニョーブの旅路自体が、一つの大きな対称構造を形成していると言えるでしょう。
登場人物と状況における鏡像的対比
次に、物語の構成における対称性について考察してみましょう。 「大尉の娘」には、グリニョーブとプガチョフ、ミロノフ家とグリニョーブ家、マーシャとシュヴァブリンなど、対照的な性質を持つ登場人物や家族、状況が数多く登場します。
例えば、グリニョーブとプガチョフは、社会的地位、性格、運命など、あらゆる面において対照的な存在として描かれています。 貴族の出身であるグリニョーブは、誠実で、名誉を重んじる若者です。 一方、プガチョフは、農民出身の反乱軍の指導者であり、粗野で予測不可能な人物として描かれています。 しかし、物語が進むにつれて、この二人の対照的な人物の関係は、単なる敵対関係を超えた、複雑な相互依存関係へと発展していきます。
また、ミロノフ家とグリニョーブ家は、それぞれ辺境の砦と裕福な領地という対照的な環境に住む家族として描かれています。 そして、マーシャとシュヴァブリンは、グリニョーブの愛をめいめい争う対照的なライバル関係にあります。 このように、「大尉の娘」は、登場人物と状況を鏡像のように対比させることによって、善と悪、忠誠と裏切り、愛と憎しみといった、人間の根源的なテーマを探求しています。