プーシキンのエウゲニー・オネーギンの価値
ロシア文学における位置づけ
「エウゲニー・オネーギン」は、ロシア文学史において極めて重要な作品であり、しばしば「ロシア文学の礎」と称されます。プーシキンが約8年の歳月をかけて1830年に完成させたこの作品は、ロシア文学にリアリズムという新しい潮流をもたらしました。それまでの文学が古典主義やロマン主義の影響下にあったのに対し、「エウゲニー・オネーギン」は当時のロシア社会や人々の生活を写実的に描写し、ロシア文学の新たな地平を切り開いたのです。
韻律と文体
本作は、プーシキンが独自に考案した「オネーギン詩節」と呼ばれる14行詩で書かれています。この詩節は、弱強格四歩格を基調とし、独特の韻律と文体を持つため、ロシア語の音楽性を最大限に引き出し、物語に深みと豊かさを与えています。また、プーシキンは巧みな語り口で、登場人物たちの心理や情景を鮮やかに描写し、読者を19世紀ロシアの世界へと引き込みます。
テーマと登場人物
「エウゲニー・オネーギン」は、退屈な都会生活に飽き飽きした主人公エウゲニー・オネーギンと、純粋な田舎娘タチヤーナ・ラリーナの悲恋を中心に、愛と友情、人生の意味などをテーマに描いた作品です。オネーギンは、当時のロシア貴族社会に蔓延していた「 superfluous man(余計者)」の典型として描かれ、彼の苦悩や葛藤を通して、人間の存在と社会との関係が鋭く問われています。また、タチヤーナの純粋な愛と献身、そしてオネーギンの冷淡さとの対比は、当時の社会における男女の役割や恋愛観を浮き彫りにしています。
文化的影響
「エウゲニー・オネーギン」は、ロシア文学だけでなく、音楽、オペラ、バレエ、演劇など、様々な分野に多大な影響を与えてきました。チャイコフスキーのオペラ「エフゲニー・オネーギン」や、プロコフィエフのバレエ「ロメオとジュリエット」など、数々の名作がこの作品に触発されて誕生しています。また、登場人物たちはロシア文学の典型として、後の作家たちに大きな影響を与え、ドストエフスキーの「罪と罰」のラスコーリニコフや、トルストイの「アンナ・カレーニナ」のヴロンスキーなど、多くの作品に登場する「余計者」像の原型となりました。