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プルーストの失われた時を求めての思想的背景

プルーストの失われた時を求めての思想的背景

プルーストと同時代の思想

プルーストが「失われた時を求めて」を執筆した19世紀末から20世紀初頭にかけてのフランスは、ベルクソン、リボなどの思想家が登場し、哲学、心理学、文学など、様々な分野で大きな変革が起きていた時代でした。プルースト自身もこれらの新しい思想潮流に深く影響を受けています。

アンリ・ベルクソンと時間意識

とりわけ、哲学者アンリ・ベルクソンの影響は、「失われた時を求めて」の時間意識という重要なテーマに色濃く反映されています。ベルクソンは、客観的で均質な時間ではなく、人間の意識の中を流れる、主観的で非連続的な「 durée (デュレ)」という時間概念を提唱しました。プルーストは、ベルクソンの思想から深い影響を受け、「失われた時を求めて」において、過去の記憶が不意に蘇ることを通じて、失われた時が取り戻されるという独自の文学世界を構築しました。

テオデュール・リボと記憶

心理学者のテオデュール・リボは、記憶のメカニズムに関する研究で知られています。リボは、過去の記憶は完全に忘れ去られるのではなく、潜在意識の奥底に蓄積されており、あるきっかけで意識に蘇ってくると考えました。プルーストは、作中で「 involuntary memory (非意図的記憶)」という言葉を用い、過去の記憶が、五感の刺激によって鮮やかに蘇る様子を描写しています。これは、リボの記憶に関する研究の影響を色濃く反映したものであると考えられます。

19世紀末の諸問題

「失われた時を求めて」は、19世紀末のフランス社会における不安やデカダンスといった諸問題も背景にしています。当時のフランスは、普仏戦争の敗北や経済の停滞などにより、社会全体に閉塞感が漂っていました。プルーストは、このような時代の雰囲気を背景に、貴族社会の退廃や登場人物たちの愛と嫉妬、喪失感などを繊細な筆致で描き出しました。

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