プルーストの失われた時を求めての名前
「失われた時を求めて」
プルースト自身は当初、作品全体に「失われた時を求めて」という題名を付けることは考えていませんでした。当初予定されていた題名は、「スワン家のほうへ」と「ゲリマントのほうへ」の二部構成で、全体をまとめる題名は存在しませんでした。
しかし、第一次世界大戦の影響で刊行が遅延し、その間にプルーストは大幅な加筆修正を行いました。その過程で作品の内容が大きく変化したため、当初の題名では内容を表しきれなくなったと考えられます。最終的に、プルーストは友人で詩人のルイ・アラゴンの提案を受け入れ、「失われた時を求めて」という題名を採用しました。
主要人物の名前
プルーストは登場人物の名前一つ一つに深い意味を込めています。ここでは、主要人物の名前が持つ意味について解説します。
* **シャルル・スワン**
スワンという姓は、英語で「白鳥」を意味します。白鳥は、高貴さ、優雅さ、そして死の予兆を象徴する生き物です。スワンは、主人公にとって憧れの存在であると同時に、芸術に対する深い理解を持つ教養人として描かれています。しかし、彼はオデットという女性への愛に苦しみ、やがて社会的に没落していきます。彼の名は、美と愛、そして死の予兆を暗示していると言えるでしょう。
* **オデット・ド・クレルモン**
オデットという名前は、フランス語で「白鳥」を意味する「cygne」と韻を踏んでいます。これは、彼女がスワンにとっての「白鳥」のような存在であることを示唆しています。また、クレルモンという姓は、フランスの貴族社会を代表するような響きを持っています。彼女は、その美貌と社交性でスワンを虜にしますが、実際には上流社会への足掛かりを求める計算高い女性として描かれています。
* **ロベール・ド・サン=ルー**
サン=ルーという姓は、フランス語で「聖なる場所」を意味します。ロベールは、貴族社会の出身でありながら、芸術や文学に深い関心を持ち、精神的な高みを目指そうとする人物として描かれています。しかし、彼もまた、愛と欲望に翻弄され、悲劇的な運命を辿ることになります。
これらの名前は、登場人物たちの性格や運命を暗示するだけでなく、作品全体を貫くテーマである「時間」「記憶」「愛」「死」とも深く結びついています。プルーストは、登場人物たちに象徴的な名前を与えることで、読者に多層的な読みを促していると言えるでしょう。