## プリゴジンの混沌からの秩序
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プリゴジンの「混沌からの秩序」:詳細解説
ロシア生まれのベルギーの物理化学者イリヤ・プリゴジンは、1977年にノーベル化学賞を受賞した、非平衡熱力学、特に散逸構造の理論の分野における先駆者です。彼の最も有名な著作の一つである「混沌からの秩序」は、1984年に化学者のイザベル・ステンガースとの共著で出版されました。この本は、従来の科学が持つ決定論的な世界観に挑戦し、時間、複雑さ、不可逆性を新たな視点から捉え直すことで、科学におけるパラダイムシフトを提唱しています。
プリゴジンは、古典的な熱力学が主に平衡状態やそれに近い系を扱うのに対し、現実の世界は非平衡状態にあると主張します。非平衡状態にある系は、外部からのエネルギーの流れによって、自発的に秩序を生み出す可能性を秘めているのです。彼はこのような自己組織化現象を「散逸構造」と呼び、その例として、ベナール対流やベロウソフ・ジャボチンスキー反応などを挙げました。
プリゴジンは、散逸構造の形成において「ゆらぎ」が重要な役割を果たすと強調しました。ゆらぎとは、系に生じる小さな擾乱のことですが、非平衡状態では、これが増幅され、巨視的な秩序形成の引き金となりえます。つまり、混沌とした状態の中から、自発的に秩序が生まれる可能性があるというわけです。
「混沌からの秩序」は、物理学、化学、生物学、社会学など、幅広い分野に影響を与え、複雑系科学の発展に大きく貢献しました。プリゴジンの理論は、決定論的な世界観を超えて、時間、複雑さ、不可逆性を統合的に理解するための新たな枠組みを提供するものであり、現代科学における重要な概念の一つとなっています。