プリゴジンの混沌からの秩序を深く理解するための背景知識
ロシアの生化学者、イリヤ・プリゴジンについて
イリヤ・プリゴジン(1917年~2003年)は、ロシア生まれのベルギーの物理化学者であり、熱力学、特に不可逆過程の熱力学における業績で知られています。彼は1977年に「散逸構造」に関する研究でノーベル化学賞を受賞しました。散逸構造とは、エネルギーや物質の流れが存在する非平衡状態において、自己組織化によって秩序が生じる構造のことです。
プリゴジンはモスクワで生まれ、1921年に家族とともにベルギーに移住しました。ブリュッセル自由大学で化学を学び、1941年に博士号を取得しました。その後、同大学で教鞭をとり、1962年から1987年までソルベー国際物理化学研究所の所長を務めました。
プリゴジンの研究は、非平衡状態における熱力学に焦点を当てていました。古典的な熱力学は、平衡状態にある系を対象としていましたが、プリゴジンは、生命現象をはじめとする多くの自然現象は、非平衡状態にあることを指摘しました。そして、非平衡状態においては、エネルギーや物質の流れが存在することで、エントロピーが増大するだけでなく、自己組織化によって秩序が生じることがあることを示しました。
散逸構造と自己組織化
プリゴジンの研究の中心概念である「散逸構造」は、エネルギーや物質が系を通り抜けることで維持される秩序ある構造を指します。例えば、ベナール対流は、下から加熱された流体において、温度差がある一定の値を超えると、六角形などの規則的な対流パターンが現れる現象です。これは、熱エネルギーの流れによって、ランダムな運動をしていた流体分子が秩序を持って運動するようになる例です。
散逸構造は、非平衡状態における「自己組織化」の産物です。自己組織化とは、系を構成する要素が、外部からの指示なしに、相互作用を通じて秩序ある構造を形成する現象です。プリゴジンは、散逸構造の形成は、非平衡状態における熱力学の普遍的な法則であると主張しました。
プリゴジンの研究の広がり
プリゴジンの研究は、物理化学だけでなく、生物学、社会学、経済学など、幅広い分野に影響を与えました。例えば、生物における細胞の形成や進化、社会における都市の形成や経済発展など、さまざまな現象を自己組織化の観点から理解する試みが行われています。
プリゴジンの研究は、従来の決定論的な世界観とは異なる、新しい世界観を提示したとも言えます。古典的な物理学では、未来は過去の状態によって完全に決定されると考えられていましたが、プリゴジンの研究は、非平衡状態においては、偶然性や予測不可能性が重要な役割を果たすことを示唆しています。
プリゴジンの混沌からの秩序の概念
プリゴジンの「混沌からの秩序」という概念は、非平衡状態において、ランダムな運動や揺らぎの中から、秩序ある構造が出現することを意味します。これは、一見すると矛盾しているように見えますが、プリゴジンは、非平衡状態におけるエネルギーや物質の流れが、自己組織化を促進する役割を果たすことを示しました。
プリゴジンの研究は、自然現象を理解する上で、新しい視点を提供しました。従来の平衡状態を重視する熱力学とは異なり、プリゴジンは、非平衡状態こそが、生命現象をはじめとする多くの自然現象の本質であることを示しました。そして、非平衡状態における自己組織化という概念は、複雑な現象を理解するための強力なツールとなっています。
プリゴジンの研究の意義
プリゴジンの研究は、自然科学だけでなく、社会科学や哲学にも大きな影響を与えました。彼の研究は、複雑系科学の発展に大きく貢献し、自己組織化、創発、非線形性などの概念を普及させました。また、彼の研究は、決定論的な世界観に疑問を投げかけ、偶然性や予測不可能性を重視する新しい世界観を提示しました。
プリゴジンの研究は、現代社会における複雑な問題を解決する上でも重要な示唆を与えています。例えば、地球環境問題や経済危機などの問題は、従来の線形的な思考では解決が難しいと考えられています。プリゴジンの研究は、複雑な問題を解決するためには、非線形的な相互作用や自己組織化といった概念を理解することが重要であることを示唆しています。
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