## プリゴジンの「混沌からの秩序」の美
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プリゴジンと非平衡熱力学
ロシア生まれのベルギーの物理化学者であるイリヤ・プリゴジン(1917-2003)は、非平衡熱力学、特に散逸構造の研究で1977年にノーベル化学賞を受賞しました。彼の研究は、一見無秩序な状態から秩序がどのように生じるかを理解するための新しい枠組みを提供しました。
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平衡からの逸脱と自己組織化
古典的な熱力学は、主に平衡状態にある系を扱ってきました。平衡状態では、系の巨視的な性質は時間とともに変化しません。一方、プリゴジンは、平衡から遠く離れた非平衡状態にある系に関心を持ちました。このような系では、エネルギーや物質の流れが存在し、それが新たな構造や秩序の形成につながることがあります。
プリゴジンは、非平衡状態にある系が、外部からの指示なしに自発的に秩序立った構造を形成する能力を持つことを示しました。彼はこれを「自己組織化」と呼びました。自己組織化は、生物系から非生物系まで、自然界のあらゆるレベルで見られる現象です。
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散逸構造と「秩序からの秩序」
プリゴジンは、非平衡状態にある系において自己組織化によって形成される秩序立った構造を「散逸構造」と名付けました。散逸構造は、エネルギーや物質の流れが存在することで維持されます。流れが止まると、散逸構造も消滅します。
重要な点は、散逸構造は、系が平衡から離れることで初めて現れるということです。つまり、「混沌」と見なせるような非平衡状態が、新しい秩序の創出に不可欠なのです。これは、従来の「秩序からの秩序」という考え方を覆すものであり、「混沌からの秩序」という新しい視点を提供するものです。
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例:ベナール対流
プリゴジンが研究した現象の一つに、ベナール対流があります。これは、下面を加熱した流体層に生じる対流現象です。温度差が小さい場合には、熱は伝導によってのみ伝達されます。しかし、温度差がある一定値を超えると、流体は自発的に循環を始め、六角形などの規則的な対流パターンが現れます。
ベナール対流は、散逸構造の一例です。熱の流れが、秩序立った対流パターンという新しい構造を生み出しているのです。