プラトンの饗宴を読んだ後に読むべき本
エリスとエロス – 愛と性の形而上学 (岸辺一郎著)
プラトンの『饗宴』を読み終えた後、その哲学的議論の豊かさに圧倒され、更なる探求心をかき立てられる読者も多いでしょう。『饗宴』は、愛と美、そして人間の魂の本質について、ソクラテスとその仲間たちが酒を酌み交わしながら語り合う、プラトン哲学の真髄に触れることのできる重要な一篇です。
この対話篇で展開される、愛の梯子、アンドロギュノスの神話、そしてディオティマの言葉は、読者に深い思索を促します。愛とは何か、美とは何か、そして人間はなぜ愛を求めるのか。これらの問いは、『饗宴』を読み終えた後も、読者の心に残り続けるのではないでしょうか。
そこで、『饗宴』を読み終えた後にこそ、その理解を更に深める一冊としてお勧めしたいのが、岸辺一郎著『エリスとエロス – 愛と性の形而上学』です。この本は、古代ギリシャ哲学における「エロス」の概念を、プラトンをはじめとする様々な哲学者たちの思想を辿りながら、現代的な視点も交えて解き明かしていく作品です。
本書は、『饗宴』で中心的に語られる「エロス」を、単なる恋愛感情や性愛ではなく、世界の根源的な力、創造と生の衝動として捉え直すことから始まります。そして、ヘシオドスやパルメニデス、エンペドクレスといった、プラトン以前の哲学者たちの思想を紐解きながら、「エロス」概念の変遷と、そこに込められた古代ギリシャ人の世界観を浮き彫りにしていきます。
特に興味深いのは、本書が「エロス」と対比的に「エリス」という概念を導入している点です。「エリス」は、日本語では「争い」や「不和」と訳されることが多い言葉ですが、岸辺氏は、この言葉の中にこそ、古代ギリシャ人の世界観を理解する鍵が隠されていると主張します。
秩序と調和を重視するプラトン哲学において、「エリス」は否定的に捉えられがちです。しかし、岸辺氏は、「エリス」を単なる破壊や混乱の原理ではなく、世界に変化や多様性をもたらす、創造的な力としても捉え直します。そして、「エロス」と「エリス」という一見対立する二つの力が、実は互いに補完し合いながら、世界を生成発展させる原動力となっていることを明らかにするのです。
『饗宴』を読み終えた後、本書を手に取ることで、プラトンの愛の哲学に対する理解をより深めることができるだけでなく、古代ギリシャ哲学の世界観そのものを、新たな視点から捉え直すことができるでしょう。