プラトンの饗宴が扱う社会問題
エロスの正体
プラトンの饗宴は、一見すると、愛をテーマにした対話篇のように思えます。登場人物たちは、それぞれの立場からエロスを賛美し、その本質に迫ろうと試みます。しかし、彼らの議論をよく読み解いていくと、そこには当時のアテネ社会が抱えていた様々な問題が浮かび上がってきます。
社会における同性愛
古代ギリシャ、特にアテネでは、成人男性と少年との間に特別な関係性、すなわちエロースに基づく関係性が認められていました。饗宴においても、パウサニアスが、肉体的な欲望を伴う「凡庸なエロス」と、精神的な結びつきを重視する「天上のエロス」を区別し、後者を称賛しています。
しかし、この議論は、当時の社会における同性愛が、必ずしも純粋な精神的な愛だけで成り立っていたわけではないことを示唆しています。アリストパネスの演説に見られるように、肉体的な欲望を完全に切り離すことは難しく、そこには常に倫理的な問題がつきまとっていました。
女性の立場
饗宴に登場する女性は、ディオティマただ一人です。それも、直接登場するのではなく、ソクラテスの回想という形で語られます。これは、当時のアテネ社会における女性の立場が非常に低く、政治や哲学といった公的な場から排除されていたことを反映しています。
ディオティマの口を通して語られる「エロスは、永遠なる美を求めるもの」という考え方は、一見すると崇高なものに聞こえます。しかし、女性の社会進出が制限された社会において、男性が女性を「美の対象」としてしか見ていなかった可能性も否定できません。
戦争と平和
饗宴が書かれたのは、ペロポネソス戦争の最中でした。アテネはスパルタとの激しい戦いに巻き込まれ、都市は疲弊し、人々の心は荒廃していました。そのような時代背景の中で、プラトンは、真の愛、すなわちエロスが、個人を超えた、より大きな共同体へと人々を導く力を持つと考えたのかもしれません。
アルキビアデスが、ソクラテスへの愛を告白する場面は、まさにこのことを象徴しています。アルキビアデスは、ソクラテスの知性と徳性に惹かれながらも、 ultimatelyは肉体的な欲望を満たすことができずに終わります。これは、戦争によって引き裂かれたアテネ社会の苦悩を表しているようにも解釈できます。