プラトンのメノンの表象
表象とは
プラトンの対話篇『メノン』は、徳(アレテー)の本質をめぐるソクラテスとメノンとの対話を通して、徳が教えられるかという問題を探求する作品です。この作品において重要な役割を果たす概念の一つに、「表象」(eidos)があります。表象は、日本語では「イデア」とも訳され、プラトン哲学の中核をなす概念です。
メノンにおける表象
メノンにおいて、表象という語は、主に次の二つの場面で登場します。
1. **徳の定義をめぐる議論**:ソクラテスは、メノンに徳の定義を求めますが、メノンは満足のいく定義を示すことができません。この議論の中で、ソクラテスは、「徳とは何か」という問いに対して、具体的な事例ではなく、普遍的な「徳そのもの」の定義を求めていることを明らかにします。この「徳そのもの」こそが、表象と呼ぶべきものにあたります。
2. **想起説**:ソクラテスは、メノンとの議論の中で、魂は不死であり、前世ですべてのものを知っていたという「想起説」を展開します。そして、学習とは、この前世の知識を思い出す過程に過ぎないと主張します。この際、ソクラテスは、幾何学の問題を例に挙げ、奴隷少年が、適切な質問によって、自ら幾何学的な真理を「想起」していく過程を示します。ここで想起される真理もまた、表象の一種と考えることができます。
表象の特徴
上記の二つの場面から、メノンにおける表象の特徴として、以下の点が挙げられます。
* **普遍性**: 表象は、具体的な事例を超えた、普遍的な概念です。
* **不変性**: 表象は、時間や場所を超えて、常に成立する不変の真理です。
* **非感覚性**: 表象は、感覚的に捉えることのできない、知性によってのみ把握されるものです。
* **想起の対象**: 表象は、魂が前世で知っていたものであり、想起の対象となります。
表象の意義
メノンにおいて、表象は、真の知識の対象として、重要な役割を果たしています。ソクラテスは、表象を認識することこそが、真の徳を獲得し、正しい生活を送るために不可欠であると考えています。