## プラトンの「饗宴」と言語
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愛の言説:多様なロゴス
「饗宴」は、プラトンが対話篇の形式で著した作品であり、主題は「エロース(愛)」です。この作品では、アガトンの家で開かれた酒宴に集まった人々が、それぞれの視点から愛についてスピーチを繰り広げます。パウサニアス、アリストパネス、アガトンなど、登場人物たちは、神話や比喩を駆使しながら、愛の本質や起源、効用について多様な解釈を提示します。
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ソクラテスの言説:ディオティマの教え
ソクラテスは、自身が愛について無知であることを認めつつ、かつてマンティネイアの女預言者ディオティマから聞いた話を語ります。ディオティマによれば、エロースは神ではなく、不死と死との間に位置する「精霊(ダイモーン)」であると教えます。エロースは、美を求めて絶えず上昇していく存在であり、その究極の目的は「美そのもの」を「産み出す」ことにあるとされます。
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「饗宴」における言語の役割
「饗宴」は、登場人物たちの多様な言説を通して、愛という複雑な概念に多角的に迫る作品です。各々が用いる比喩や表現技法は、それぞれの立場や思想を反映しており、多様なロゴス(言葉、言説、理性)が交錯する場として描かれています。
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レトリックと弁証法
登場人物たちのスピーチは、当時のアテネにおけるレトリック(修辞学)の影響を強く受けています。巧みな比喩や論理展開は、聴衆を魅了し、説得することを目的としています。一方で、ソクラテスは、問答を通して相手の矛盾を指摘し、真実に近づこうとする弁証法的な手法を用います。
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「言挙げぬもの」への示唆
「饗宴」は、愛や美といった抽象的な概念を言語化することの限界も示唆しています。ソクラテスの言説でさえ、最終的には「言挙げ得ぬもの」へと向かい、言語の限界を示唆しています。