ブローデルの地中海を読む前に
ブローデルの生涯と業績
フェルナン・ブローデル（1902-1985）は、20世紀を代表する歴史家の一人であり、アナール学派の中心人物として知られています。アナール学派は、伝統的な歴史学が政治や外交などの出来事を中心に据えてきたことに対し、経済、社会、文化、地理といったより広範な要素を重視し、歴史を長期的な視点から捉え直そうとしました。
ブローデルの歴史観：構造と長期持続
ブローデルは、歴史を理解するためには、短期的、偶発的な出来事の背後にある、長期的に持続する構造や傾向を明らかにすることが重要だと考えました。彼は、歴史を以下の3つの層に分けました。
* **出来事（événement）：**政治的事件や戦争、革命など、短期間で起こり、人々の記憶に残りやすい出来事。
* **社会経済構造（conjoncture）：**経済の循環や社会構造の変化など、数十年から数百年のスパンで変化する中期的な構造。
* **地理的環境（structure）：**気候や地形、動植物相など、数百年から数千年という長期間にわたってほとんど変化しない地理的条件。
『地中海』の概要：16世紀の「地中海世界」
ブローデルの代表作『地中海』は、16世紀の地中海世界を対象とし、その歴史を、地理、経済、社会、文化、政治など、多角的な視点から分析した壮大な作品です。全3巻からなり、それぞれ「環境の歴史」「集団生活と全体構造」「出来事のなかの地中海」という副題が付けられています。
予備知識があると理解が深まる分野
700ページを超える大著であり、地理、経済、社会、宗教、政治など、多岐にわたるテーマを扱っているため、ある程度の予備知識があると、より深く理解することができます。
* **ヨーロッパ史：**16世紀は、ルネサンス、宗教改革、大航海時代など、ヨーロッパ史における重要な転換期でした。
* **イスラーム史：**地中海世界は、ヨーロッパだけでなく、オスマン帝国を中心としたイスラーム世界とも密接な関係にありました。
* **経済史：**16世紀は、商業革命が進展し、世界経済が形成され始めた時代でした。
* **地理：**地中海世界の地理的な特徴を理解することは、本書を読む上で非常に重要です。
心構え：気負わず、自分のペースで
膨大な情報量と独特な文体のため、読破には時間と根気が必要です。最初からすべてを理解しようとせず、自分のペースで読み進めていくことが大切です。