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ブローデルの地中海を深く理解するための背景知識

## ブローデルの地中海を深く理解するための背景知識

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歴史学におけるアナール学派とその特徴

ブローデルの「地中海」を理解するためには、まず彼が属するアナール学派について知る必要があります。アナール学派は、フランスの歴史学派であり、伝統的な政治史や事件史中心の歴史学から脱却し、より長期的で構造的な歴史分析を目指しました。その特徴としては、以下の点が挙げられます。

1. **長期的視点(ロングデュレ)**: アナール学派は、短い期間で起こる事件よりも、長い時間をかけてゆっくりと変化する構造や傾向に注目します。彼らは、歴史を複数の時間層で捉え、それぞれの時間層が相互に影響し合っていると考えました。ブローデルは、地中海世界を分析する際にも、この長期的視点を取り入れ、数世紀にわたる変化を捉えようとしています。

2. **地理的環境への重視**: アナール学派は、歴史を語る上で地理的環境が重要な役割を果たすと考えました。彼らは、人間の歴史は、気候、地形、植生などの地理的条件に大きく規定されていると主張しました。ブローデルも、「地中海」において、地中海という地理的環境が、歴史にどのような影響を与えてきたのかを詳細に分析しています。

3. **学際的なアプローチ**: アナール学派は、歴史学を他の学問分野、例えば地理学、社会学、経済学、人類学などと結びつけ、より総合的な歴史理解を目指しました。彼らは、歴史を多角的に分析するために、様々な学問分野の知見を取り入れる必要性を強調しました。ブローデルも、「地中海」において、歴史学だけでなく、地理学、経済学、社会学、文化人類学などの知見を駆使して、地中海世界を多角的に分析しています。

4. **全体史の追求**: アナール学派は、政治史や事件史だけでなく、社会、経済、文化、日常生活など、あらゆる側面を含めた歴史、つまり全体史を構築することを目指しました。彼らは、歴史を一部分だけを切り取って理解するのではなく、全体像を把握することの重要性を訴えました。ブローデルも、「地中海」において、政治史だけでなく、経済、社会、文化、日常生活など、地中海世界のあらゆる側面を網羅的に分析することで、全体史を描こうとしています。

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ブローデルの「地中海」における基本的な概念

ブローデルの「地中海」を理解する上で重要な概念がいくつかあります。

1. **構造**: ブローデルは、歴史を複数の時間層で捉え、その中で最も変化の遅い層を「構造」と呼びました。構造は、地理的環境、気候、経済システム、社会構造など、長い時間をかけて形成されたものであり、歴史の基盤をなしています。ブローデルは、「地中海」において、地中海世界の構造を分析し、それが歴史にどのような影響を与えてきたのかを明らかにしようとしました。

2. **コンジョンクチュール**: ブローデルは、構造よりも変化の速い時間層を「コンジョンクチュール」と呼びました。コンジョンクチュールは、経済サイクル、人口動態、政治体制の変化など、数十年から数世紀の間に起こる変化を指します。ブローデルは、「地中海」において、地中海世界における様々なコンジョンクチュールを分析し、それが構造とどのように相互作用しているのかを明らかにしようとしました。

3. **出来事**: ブローデルは、最も変化の速い時間層を「出来事」と呼びました。出来事は、戦争、革命、政治家の決断など、短期間で起こる出来事を指します。ブローデルは、出来事は歴史の表面的な現象に過ぎないと考え、構造やコンジョンクチュールに比べて重要性は低いとしました。しかし、「地中海」においても、出来事が歴史に与える影響を完全に無視したわけではなく、出来事が構造やコンジョンクチュールとどのように関係しているのかを分析しています。

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16世紀の地中海世界の状況

ブローデルの「地中海」は、16世紀の地中海世界を舞台としています。16世紀の地中海世界は、オスマン帝国の隆盛、大航海時代の到来、宗教改革など、大きな変化の時代でした。

1. **オスマン帝国の隆盛**: 15世紀末から16世紀にかけて、オスマン帝国は地中海世界で強大な勢力を築きました。オスマン帝国は、東地中海地域を支配下に置き、ヨーロッパ諸国との間で激しい争いを繰り広げました。ブローデルは、「地中海」において、オスマン帝国の隆盛が地中海世界に与えた影響を詳細に分析しています。

2. **大航海時代の到来**: 15世紀末から16世紀にかけて、ヨーロッパ諸国は大航海時代を迎えました。コロンブスによるアメリカ大陸の発見、ヴァスコ・ダ・ガマによるインド航路の開拓など、新たな航路が次々と発見され、ヨーロッパとアジア、アメリカ大陸との間の交易が活発化しました。大航海時代は、地中海世界の経済構造に大きな変化をもたらし、地中海地域の相対的な地位の低下につながりました。ブローデルは、「地中海」において、大航海時代が地中海世界に与えた影響を分析しています。

3. **宗教改革**: 16世紀前半、ヨーロッパでは宗教改革が起こりました。ルターやカルヴァンなどの宗教改革家は、カトリック教会の腐敗を批判し、新たな宗教を打ち立てました。宗教改革は、ヨーロッパをカトリックとプロテスタントに分裂させ、激しい宗教戦争を引き起こしました。地中海世界も、この宗教対立の影響を受け、カトリック諸国とオスマン帝国との対立が激化しました。ブローデルは、「地中海」において、宗教改革が地中海世界に与えた影響を分析しています。

このように、ブローデルの「地中海」を深く理解するためには、アナール学派の歴史観、ブローデルの基本的な概念、そして16世紀の地中海世界の状況について知っておく必要があります。これらの背景知識を踏まえることで、「地中海」という壮大な歴史叙述をより深く理解することが可能となります。

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