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ブローデルの地中海の技法

ブローデルの地中海の技法

構造

ブローデルの『地中海』は、伝統的な歴史叙述の枠組みを打ち破る、独特な三層構造を採用しています。

* **第一部:ほとんど動かない歴史**

ここでは、地中海という舞台そのものに焦点が当てられます。山脈や平野、島々、半島といった地理的条件、気候や風土、海流や風の循環といった自然環境が、そこに暮らす人々の生活にどのような影響を与えてきたのかを、長期的な視点から分析します。

* **第二部:経済と社会のゆっくりとした歩み**

この部分では、16世紀という特定の時代を背景に、地中海世界における経済活動と社会構造が描かれます。貿易や金融、都市と農村の関係、帝国と都市国家の対立といったテーマが、具体的な事例や統計データを用いながら分析されます。

* **第三部:出来事の表層**

政治や戦争、外交といった、従来の歴史書で中心的に扱われてきた出来事が、ここでは最後の部分に置かれます。ブローデルは、これらの出来事を「表面的な波」と捉え、その背後にある、より根深い構造や変化を明らかにしようと試みます。

時間

ブローデルは、歴史を捉える上で「時間」という概念を重視し、複数の時間軸を導入することで、歴史の重層性を浮かび上がらせました。

* **地理的時間(Longue durée)**

地理的条件や気候など、ほとんど変化することのない、極めて長いスパンの時間。

* **社会経済的時間(Conjoncture)**

経済構造や社会制度、文化的な潮流など、数十年から数百年のスパンで緩やかに変化する時間。

* **出来事の時間(Histoire événementielle)**

政治的事件や戦争など、数年単位で起こる出来事の時間。

空間

ブローデルは、地中海を単なる歴史の舞台としてではなく、それ自体が歴史を規定する重要な要素として捉えました。

* **全体性**

地中海世界を、ヨーロッパ、アジア、アフリカの三大陸にまたがる、ひとつの有機的な Einheit(統一体)として捉え、その内部における相互作用や交流に注目しました。

* **多様性**

地中海世界は、多様な文化、宗教、言語、民族が共存する空間でもありました。ブローデルは、そうした多様性が、地中海世界の歴史にどのような影響を与えてきたのかを考察しました。

資料

ブローデルは、従来の歴史研究であまり利用されてこなかった、多様な資料を駆使しました。

* **公文書**

国家や地方自治体の記録、外交文書など。

* **私文書**

日記、書簡、手記など。

* **経済資料**

商業帳簿、価格記録、船舶積荷目録など。

* **文学作品**

小説、詩、戯曲など。

* **絵画・地図**

当時の風景や人々の暮らしぶりを知るための手がかりとして利用。

これらの技法を用いることで、ブローデルは、従来の歴史叙述では見過ごされてきた、歴史の深層に光を当て、地中海世界を、時間と空間を超えた、壮大なスケールで描き出すことに成功しました。

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