ブルデューのディスタンクシオンから学ぶ時代性
ディスタンクシオンと時代性
ピエール・ブルデューの主著『ディスタンクシオン』は、1979年にフランスで出版されて以来、社会学のみならず、文化研究、教育学、歴史学など、多岐にわたる分野に影響を与えてきた古典である。 本著でブルデューは、フランス社会における文化的な趣味やライフスタイルの差異が、社会階級構造と密接に関係していることを、膨大な量のデータと精緻な分析によって明らかにした。
趣味の階級性と文化的再生産
ブルデューによれば、人々の文化的嗜好は、個人の自由な選択の結果ではなく、社会階層によって規定された「ハビトゥス」と呼ばれる思考、行動、判断の枠組みによって形成される。 上流階級は、経済的な豊かさだけでなく、世代を超えて受け継がれてきた「文化資本」を豊富に保有しており、美術館巡りやクラシック音楽鑑賞といった「正当な」文化を享受することで、自らの社会的地位を無意識的に示し、他者との差異化を図っている。
一方、労働者階級は、経済的・文化的な資源の制約から、日常生活に密着した実践的な文化を志向する傾向にある。ブルデューは、このような趣味の階級性によって、社会的不平等が世代を超えて再生産されるメカニズムを明らかにした。
時代変化とディスタンクシオンの変容
『ディスタンクシオン』は、1960年代のフランス社会を対象とした分析であるが、それから半世紀以上が経過した現代社会においても、その洞察は色褪せていない。むしろ、グローバリゼーション、情報化、社会の多様化といった時代変化の中で、文化的な差異化のメカニズムは、より複雑化し、流動化していると言えるだろう。
新しい文化資本の台頭
例えば、インターネットやソーシャルメディアの普及は、従来の文化資本とは異なる価値を生み出している。 情報収集能力、発信力、オンラインコミュニティにおける影響力といった「デジタル資本」は、新たな社会階層の指標となりつつある。また、環境問題や社会貢献への関心の高まりは、「エシカル消費」や「サステイナブルなライフスタイル」といった、新たな文化的な差異化を生み出している。
ディスタンクシオンの現代社会における意義
ブルデューの『ディスタンクシオン』は、現代社会における文化と社会構造の関係を理解する上で、依然として重要な視点を提供してくれる。 特に、新しい技術や価値観が社会にもたらす影響を分析する際には、ブルデューの理論が重要な示唆を与えてくれるだろう。