## ブルクハルトのイタリア・ルネサンスの文化とアートとの関係
ブルクハルトの主張
ヤコブ・ブルクハルトは、その著書『イタリア・ルネサンスの文化』(1860年)において、14世紀から16世紀にかけてのイタリアを舞台に、古代ギリシャ・ローマ文化を復興し、その上に新しい文化が花開いたと主張しました。彼は、この時代を「ルネサンス」と呼び、中世とは明確に区別される近代の始まりと位置づけました。
アートの役割
ブルクハルトは、ルネサンスの精神を最もよく表しているのがアートであると考えました。彼は、ルネサンスのアートの特徴として、以下の3点を挙げました。
* **人間中心主義(Individualism):** 中世の宗教中心的な世界観から脱却し、人間とその内面世界に関心が向けられるようになりました。絵画や彫刻では、聖書の登場人物よりも、現実の人間をモデルにした写実的な表現や、人間の感情や心理描写が重視されるようになりました。
* **古典主義(Classicism):** 古代ギリシャ・ローマの美術作品から、その様式や技法を学び、理想的な美を追求しました。建築では、古代ローマ建築の様式を模倣した建物が建てられ、絵画や彫刻では、古代の神話や歴史を題材にした作品が多く制作されました。
* **世俗主義(Secularism):** 宗教的なテーマだけでなく、日常生活や自然を描いた作品も増え、芸術の領域が広がりました。また、教会だけでなく、貴族や商人など、教会以外の機関や個人が芸術を patronage するようになり、芸術作品の主題や表現も多様化しました。
具体的な例
ブルクハルトは、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロといった巨匠たちの作品を分析し、彼らがルネサンスの精神を体現していると高く評価しました。
* **レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」:** 謎めいた微笑みを浮かべる女性の肖像画は、人間の複雑な内面を表現しようとするルネサンス期の精神をよく表しています。
* **ミケランジェロの「ダビデ像」:** 古代ギリシャ彫刻を彷彿とさせる理想的な肉体美を持つダビデ像は、古典主義の影響を示すとともに、人間の力強さを象徴しています。
* **ラファエロの「アテネの学堂」:** 古代ギリシャの哲学者たちが集う様子を描いたこのフレスコ画は、古典文化への憧憬と、理性や知識を重視するルネサンスの精神を表しています。
これらの作品は、ブルクハルトが主張するルネサンスの精神をよく表しており、彼の理論を裏付ける根拠として用いられました。
影響
ブルクハルトの『イタリア・ルネサンスの文化』は、ルネサンスに対するその後の歴史観に大きな影響を与え、ルネサンス研究の古典として位置づけられています。彼の理論は、美術史だけでなく、歴史学、思想史、文化史など、様々な分野の研究に影響を与え、ルネサンスという時代を理解するための重要な視点を提供しました。