フローベールの感情教育とアートとの関係
アートへの渇望
アートは、「感情教育」において、主人公フレデリック・モローのロマンチックな理想主義と現実世界との間の溝を象徴しています。彼は絵画、彫刻、演劇に魅了され、それらに純粋な美と感情の深みを見出します。しかし、彼自身の芸術的才能は平凡であり、創作活動よりも鑑賞に留まります。これは、彼が人生においても受動的な観察者に甘んじ、真の情熱を注ぎ込めないことと重なります。
芸術と社会的地位
小説では、芸術が上流階級の社交界におけるステータスシンボルとして機能する様子も描かれています。美術品収集は、教養と洗練された趣味の証とされており、フレデリックもまた、彼らが享受する優雅な生活に憧れ、彼らと同じように芸術を愛することで、その世界に近づこうとします。しかし、真の芸術への理解よりも、社交的な優越性のために芸術を利用する人々の偽善にも彼は気づき始めます。
芸術の幻滅
フレデリックは、理想化していた芸術家たちも、結局は世俗的な欲望や野心に動かされていることを目の当たりにします。彼の憧れの的であった画家、アルヌーは、名声と金銭のために才能を浪費し、妥協を重ねるようになります。この失望は、フレデリックが芸術だけでなく、人生そのものに対する幻想を抱いていたことを示唆しています。
芸術の不変性
社会の混乱や個人の挫折が描かれる一方で、芸術作品は時代を超越した美と真実を体現するものとして存在し続けます。小説の終盤、年老いたフレデリックは、かつて訪れた美術館を再び訪れます。そこで彼が目にするのは、過ぎ去った時間や失われた情熱とは無縁に、静かに佇む芸術作品の姿です。それは、彼の青春時代の憧憬を呼び起こすと同時に、永遠に失われたものへの哀愁を漂わせるのです。