フローベールのサランボーの表象
オリエンタリズムの影響
オリエンタリズムとは、西洋文化における東洋に対するステレオタイプな表象や解釈を指します。「サランボー」は、古代カルタゴを舞台とし、その文化や風俗を描写していますが、そこには当時のフランスを含む西洋社会における東洋観が色濃く反映されています。例えば、カルタゴ人は、残酷で、官能的で、理性よりも情熱に支配された民族として描かれています。
女性の表象
サランボーは、カルタゴの将軍ハミルカルの娘であり、物語の中心人物の一人です。彼女は、美しく、神秘的な存在として描かれる一方で、冷酷で、男たちを翻弄するファム・ファタール(運命の女)的な側面も持ち合わせています。このサランボーの複雑な人物造形は、当時のフランス文学における女性のステレオタイプ、すなわち「聖女」と「娼婦」という二元論を超えた、新しい女性像を提示していると言えるかもしれません。
暴力と官能の描写
「サランボー」は、戦闘シーンや拷問シーンなど、暴力描写が非常に多い作品です。また、サランボーとマートの禁断の愛など、官能的な描写も頻繁に登場します。これらの描写は、当時の読者に衝撃を与え、物議を醸しました。フローベールは、写実主義を標榜し、人間のあらゆる側面をありのままに描こうとしたと考えられますが、その過剰な暴力と官能の描写は、同時に読者を魅了する要素でもありました。
歴史とフィクションの融合
「サランボー」は、古代カルタゴを舞台にした歴史小説ですが、完全に史実に基づいているわけではありません。フローベールは、膨大な資料を参考にしながらも、自身の想像力を駆使して、独自のカルタゴ像を作り上げています。歴史とフィクションを巧みに融合させたことで、「サランボー」は、単なる歴史小説を超えた、壮大なスケールを持つ作品となっています。