フローベールのサランボーの翻訳
翻訳の難しさ
フローベールの『サランボー』は、古代カルタゴを舞台にした歴史小説であり、その壮大なスケール、華麗な文体、異国情緒あふれる描写で知られています。しかし、これらの要素が翻訳を困難にしているのも事実です。
まず、作中に登場するカルタゴの文化、風俗、宗教儀式などは、現代では完全に解明されていない部分が多く、訳出が難しい箇所が多数存在します。また、フローベール独特の華麗で詩的な文体は、原文のニュアンスを損なうことなく日本語に移し替えることが容易ではありません。
さらに、登場人物の名前や地名、神々の名前などは、フランス語では発音しやすく美しい響きを持つものが多く、日本語に置き換える際には、原文の雰囲気を壊さないように、かつ読者にとって読みやすい音韻を選ぶ必要があります。
翻訳の歴史
『サランボー』は、1862年のフランスでの出版後、すぐに各国語に翻訳され、日本でも明治時代から翻訳が試みられてきました。初期の翻訳は、主にフランス語からの重訳でしたが、20世紀後半以降は、原文であるフランス語から直接翻訳されたものが主流となっています。
時代とともに、日本語の表現も変化していくため、新しい翻訳が出版されるたびに、より現代の読者にとって読みやすい表現へと改められています。また、歴史学や考古学などの研究が進み、カルタゴに関する新たな知見が得られるようになったことで、より正確な翻訳が可能になってきています。
翻訳における多様性
『サランボー』の翻訳は、現在までに数多くの版が出版されていますが、翻訳者によって文体や表現が異なり、それぞれに個性があります。
ある翻訳は、原文に忠実な直訳を旨とし、フローベールの文体をできる限り再現しようと試みています。一方、別の翻訳は、日本語として自然で読みやすい文章を重視し、意訳を交えながら、物語の世界を生き生きと描き出そうとしています。
このように、『サランボー』の翻訳は、一様ではなく、多様な解釈が存在します。そのため、複数の翻訳を読み比べてみることで、原文の持つ多面的な魅力をより深く理解することができます。