フローベールのサランボーの発想
サランボー執筆の背景
ギュスターヴ・フローベールは、1849年から1856年にかけて執筆された代表作『ボヴァリー夫人』の出版後、新たな創作のテーマを探し求めていました。『ボヴァリー夫人』では、当時のフランス社会における女性の地位や、ロマン主義文学が描く理想と現実のギャップを鋭く描き出し、大きな反響を呼びました。しかし、フローベール自身は、現代社会を舞台にした作品から離れ、全く異なる時代と文化を舞台にした歴史小説の執筆を望んでいました。
古代カルタゴへの関心
フローベールは、幼少期から歴史や古代文明に強い興味を抱いていました。特に、ローマ帝国と覇権を争った古代カルタゴの文化や歴史に深い関心を抱き、1857年には資料収集のためにチュニジアを旅行しています。
歴史的資料と想像力の融合
フローベールは、『サランボー』の執筆にあたり、古代カルタゴに関する膨大な量の史料を渉猟しました。歴史書、旅行記、考古学資料などを徹底的に調べ上げ、当時のカルタゴの社会構造、宗教儀式、風俗習慣、地理、風土などを詳細に研究しました。
サランボー像の創造
フローベールは、歴史資料に基づいて作品世界を構築する一方で、登場人物や物語の展開については、自身の想像力を駆使して創作しました。主人公であるサランボーは、カルタゴの将軍ハミルカルの娘という設定以外、歴史的記録の残っていない謎の人物です。フローベールは、このサランボーを、古代カルタゴの神秘的な魅力と、人間の情熱や野心を体現する存在として創造しました。