## フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学に匹敵する本
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ハイデガー『存在と時間』
マルティン・ハイデガーの主著『存在と時間』は、20世紀の哲学、特に存在論に多大な影響を与えた記念碑的な著作です。フッサールの現象学を批判的に継承しつつ、西洋形而上学の伝統を問い直し、「存在」の意味を根源的に解明しようと試みました。
フッサールが意識と対象の相関関係を重視したのに対し、ハイデガーは人間存在を「現存在」(Dasein)として捉え、世界内存在としての人間のあり方を時間性を軸に分析しました。彼は、日常的な世界への埋没、死への不安、歴史性といった人間の根本的な存在構造を明らかにすることで、「存在の問い」への新たな道を切り開こうとしました。
『存在と時間』は難解なことで知られており、ハイデガー自身も本書で意図した計画のすべてを完遂することはできませんでした。しかし、その思想はサルトルやメルロ=ポンティなどの実存主義哲学者、ガダマーやリクールなどの解釈学、さらには精神分析や文学理論など、多岐にわたる分野に影響を与え、現代思想における古典としての地位を確立しています。