## フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学の案内
フッサールの時代背景と問題意識
エドムント・フッサール(1859-1938)は、19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍した、ユダヤ系ドイツ人の哲学者です。彼の主著である『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』(1936年)は、当時のヨーロッパ社会が抱えていた深刻な危機意識を背景に書かれました。
第一次世界大戦後、ヨーロッパ社会は大きな変革期を迎えていました。大戦による疲弊と社会の混乱、科学技術の進歩とそれによってもたらされる倫理的な問題、そして全体主義の台頭など、さまざまな問題が噴出していました。こうした状況下で、フッサールは、ヨーロッパ精神の根底にある「理性」そのものが危機に瀕していると考えました。
ヨーロッパ諸学の危機とは
フッサールは、近代ヨーロッパを支えてきた学問体系を「ヨーロッパ諸学」と呼びました。そして、このヨーロッパ諸学が、本来目指していた「真理の探求」という理念を見失い、実用主義や相対主義に陥っていると批判しました。
例えば、自然科学は、自然現象を客観的に観察し、法則を見出すことで、自然を支配し利用することを目指すようになりました。しかし、その過程で、人間存在の意味や価値、倫理的な問題など、人間の根源的な問いに答えることを放棄してしまいました。
また、歴史学や社会学は、客観的な事実の積み重ねによって歴史や社会の法則を見出そうとしました。しかし、そこには、歴史や社会を動かす人間の主観的な意識や価値観、自由意志といったものが軽視されていました。
超越論的現象学による克服
フッサールは、このようなヨーロッパ諸学の危機を克服するためには、「事物それ自体」に立ち返ること、すなわち、先入観や偏見を排して、事物が現れるがままに捉え直すことが必要だと考えました。そして、そのための方法として、「超越論的現象学」を提唱しました。
超越論的現象学とは、意識と対象との関係を厳密に分析することによって、人間の認識の構造を明らかにしようとする哲学的方法です。フッサールは、意識は常に何かに「向かっている」という性質、すなわち「志向性」を持つと考えました。そして、意識が対象を捉えるとき、そこには、感覚的データだけでなく、過去の経験や知識、感情、価値観などが複雑に絡み合って、対象に対する意味が構成されると考えました。
現象学の意義と影響
フッサールの現象学は、20世紀の哲学に大きな影響を与え、ハイデガー、サルトル、メルロ=ポンティなど、多くの哲学者に影響を与えました。現象学は、哲学だけでなく、心理学、社会学、文学、芸術など、さまざまな分野に影響を与え、現代思想の形成に大きな役割を果たしました。