## フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学の力
###
ヨーロッパ諸学の危機
フッサールは、第一次世界大戦後のヨーロッパ社会全体に見られる混迷を背景に、学問を含む西洋文明全体の危機を認識していました。 彼は、この危機の原因を、客観主義と主観主義の二元論に陥った近代科学の方法論に求めました。
近代科学は、世界を客観的に観察し、数学的な法則によって記述することを目指してきました。 この方法論は、自然科学においては大きな成功を収めましたが、人間や文化、歴史といった領域を扱うには不十分でした。 なぜなら、人間は単なる客観的な観察の対象ではなく、意味や価値を創造する主体でもあるからです。
近代科学の方法論は、人間の主体的側面を軽視することで、精神的な価値や意味を喪失させ、結果として第一次世界大戦のような悲劇を生み出したとフッサールは考えました。 このような危機的状況において、フッサールは、ヨーロッパ精神の復興のために、新たな哲学的基礎付けが不可欠であると主張しました。
###
超越論的現象学の力
フッサールは、危機を克服するための方法として、自らが提唱する「超越論的現象学」を提示しました。 超越論的現象学は、客観主義と主観主義の二元論を超越し、意識と対象との間の相互関係を明らかにすることを目指す哲学です。
フッサールは、意識は常に何かに向かって意識しているという点、つまり「志向性」を持つ点に着目しました。 私たちが何かを認識する時、意識は客観的な世界をそのまま受け取っているのではなく、自らの解釈に基づいて対象を構成しているのです。
超越論的現象学は、「エポケー」と呼ばれる方法を用いることで、客観的な世界についてのあらゆる先入観を排除し、意識に現れる現象そのものを純粋に記述しようとします。 これにより、私たちは、客観と主観の二元論を超え、世界と自己との間の根源的な関係を明らかにすることができるとフッサールは考えました。