## フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学の世界
###
ヨーロッパ諸学の危機
フッサールは、第一次世界大戦後のヨーロッパにおける学問の状況を「危機」と捉えていました。 この危機は、学問がその本来の目的を見失い、単なる実用主義や相対主義に陥っていることから生じていると彼は考えました。 具体的には、自然科学の成功によって生み出された「客観主義」と「世界観の自然化」が、人間の精神や文化、価値といった領域を軽視し、人間存在の根源的な意味を見失わせていると批判しました。
###
超越論的現象学
フッサールは、この危機を克服するために「超越論的現象学」という哲学的方法を提唱しました。 これは、我々の意識に直接的に現れてくる現象そのものを、ありのままに記述し分析することによって、客観的な世界の背後に隠されているはずの先験的な構造、つまり「意識の相関項」を明らかにしようとする試みです。
超越論的現象学は、以下の3つの重要な還元を通じて、客観主義や世界観の自然化を乗り越えようとします。
* **現象学的還元**: 外界の存在や認識の妥当性といった問題を「カッコに入れる」ことで、意識に現れている現象そのものに焦点を当てる。
* **超越論的還元**: 意識に現れる現象を、我々の意識作用の産物としてではなく、意識に「与えられているもの」として捉え直す。
* **本質直観**: 個々の現象に共通する本質的な構造を、直観的に把握する。
###
危機からの脱出
フッサールは、超越論的現象学を通じて、人間存在の根源的な意味を回復し、ヨーロッパ諸学の危機を克服できると考えました。 彼によれば、意識の相関項としての「生活世界」、つまり我々が意味や価値を経験する根源的な生活の場を明らかにすることで、科学主義や歴史主義といった相対主義的な立場を乗り越え、客観的な真理や普遍的な価値を基礎づけることが可能になるのです。