## フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学を読む
フッサールの「ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学」を読むにあたって
エドムント・フッサールの主著の一つである「ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学」は、第一次世界大戦後のヨーロッパ社会における学問の意義と役割を問い直し、近代合理主義の限界を克服しようとする壮大な試みです。本稿では、本書を読むにあたって理解を深めるためのポイントを、フッサールの思想背景や当時の時代状況と併せて解説していきます。
近代合理主義への批判： 根底にある危機意識
フッサールは、本書において当時のヨーロッパを覆っていた「危機」の意識を鋭く指摘します。第一次世界大戦による社会の混乱と精神的な荒廃は、人々の価値観を大きく揺さぶり、それまで絶対的なものと信じられてきた理性や科学に対する懐疑を生み出しました。
フッサールはこのような危機的状況を、近代合理主義の行き詰まりに起因するものだと考えました。近代合理主義は、客観的な理性に基づいて世界を認識し、支配することを目指してきました。しかし、このような理性中心主義は、人間の主観的な経験や価値観を軽視し、結果として世界大戦のような悲劇を生み出したとフッサールは批判します。
生活世界の解明： 現象学的方法
では、このような危機を克服するためにはどうすれば良いのでしょうか。フッサールは、近代合理主義に代わる新たな哲学的基盤として「超越論的現象学」を提唱します。
現象学とは、「事物がどのように意識に現れてくるか」という現象に焦点を当て、先入観や偏見を排除して事物の本質を明らかにしようとする方法です。フッサールは、我々が当然視している日常的な「生活世界」こそが、あらゆる学問の基礎となるべきだと考えました。
生活世界とは、我々が日々生活し、経験している世界であり、そこには客観的な理性だけでは捉えきれない、人間の主観的な意味や価値観が織り込まれています。フッサールは、この生活世界を現象学的に分析することによって、近代合理主義の限界を超克し、人間の精神の根源に迫ろうとしました。