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フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学の分析

フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学の分析

フッサールの「ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学」における危機の概念

フッサールは、第一次世界大戦後のヨーロッパ社会における混乱と価値観の崩壊を背景に、西洋文明の根底にある学問そのものが危機に瀕していると診断しました。彼が「危機」と呼んだのは、単なる一時的な衰退や混乱ではなく、西洋理性主義の根幹を揺るがす深刻な状況を指します。

理性主義の自己解体と科学の専門分化

フッサールによれば、この危機の根源は、皮肉にも近代ヨーロッパ文明を支えてきた「理性」そのものにあります。17世紀以降、デカルトを起点とする近代合理主義は、主観と客観を峻別し、数学的・論理的な方法によって客観的な真理を捉えようとしました。

この合理主義は、自然科学の驚異的な発展をもたらす一方で、人間存在の意味や倫理、価値といった問題を科学の射程外に置いてきました。結果として、科学はますます専門分化し、生活世界から遊離した断片的な知識の集積と化していきます。

生活世界からの乖離と意味の喪失

科学の専門分化は、本来、人間の生活世界を豊かにするためにあったはずです。しかし、専門化した科学は、逆に生活世界を理解するための基盤となる「意味」や「価値」を軽視するようになりました。

フッサールは、この状況を「生活世界の忘却」と呼びます。科学が生活世界から乖離することで、人々は生の意味や目的を見失い、虚無感やニヒリズムに陥っていくとフッサールは危惧しました。

超越論的現象学による危機の克服

フッサールは、この危機を克服するために、「超越論的現象学」という新たな哲学を提唱しました。現象学とは、「事物が意識に現れる現象」を客観的な方法で記述し、分析する学問です。

フッサールは、近代科学が陥った客観主義的偏向を克服するために、「意識への立ち戻り」を主張します。意識は、単なる主観的な内面ではなく、世界のあらゆる事象を成立させる根源的な地平として捉えられます。

現象学的還元と本質直観

意識の働きを明らかにするために、フッサールは「現象学的還元」と呼ばれる方法を導入します。これは、我々が当然視している先入観や偏見を括弧に入れ、事物をありのままに直観することを目指す方法です。

現象学的還元を通じて、我々は事物の背後にある「本質」を直観することができます。本質とは、事物が事物であるために不可欠な構造を指します。

生活世界の再建と新たな科学の基礎付け

フッサールは、現象学によって生活世界の構造を明らかにすることで、科学を新たな基礎の上に再建できると考えました。つまり、現象学は、科学の基礎となる「意味」や「価値」を明らかにし、科学を再び生活世界と結びつける役割を担うと考えられます。

フッサールの試みは、後の哲学、特に存在主義や解釈学に大きな影響を与え、現代思想においても重要な位置を占めています。

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