## フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学の翻訳
フッサールの主著のひとつである「ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学」は、原題を“Die Krisis der europäischen Wissenschaften und die transzendentale Phänomenologie”といい、複数の日本語訳が存在します。
この著作は、フッサールの晩年の思想、特に「生活世界」の概念を中心とした考察が展開されており、西洋近代科学の批判的検討を通して、哲学の新たな可能性を模索する重要な著作として位置づけられます。
本稿では、フッサールの思想や表現の難解さも相まって、翻訳の際に生じる問題点をいくつか取り上げ、具体的に検討していきます。
まず、フッサールの哲学用語の翻訳には、常に困難がつきまといます。例えば、「現象学」を意味する”Phänomenologie”は、一般的にはそのまま「現象学」と訳されますが、フッサールの思想における「現象学」は、単なる現象の記述にとどまらず、意識と対象との相関関係を厳密に分析する、独自の哲学的方法論を指します。
そのため、「現象学」という言葉一つをとっても、フッサールの意図を正確に反映した訳語を選択する必要があります。
さらに、”Lebenswelt”(生活世界)や”Horizont”(地平)といった、フッサールが独自に用いる哲学用語も、文脈に応じて適切な訳語を選ぶ必要があります。これらの用語は、フッサールの思想全体を理解する上で重要な鍵となるため、翻訳の質が問われる部分と言えるでしょう。
また、フッサールの文章は、ドイツ語特有の複雑な構文や抽象的な表現が多く、正確に意味を捉えること自体が容易ではありません。
そのため、日本語として自然で分かりやすい文章にしながらも、フッサールの思想のエッセンスを損なわないように訳出することが求められます。