## フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学の美
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ヨーロッパ諸学の危機における「美」
フッサールは、「ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学」において、当時のヨーロッパにおける学問の危機を、客観主義と相対主義の対立、そしてそれによって引き起こされる「意味の危機」として捉えています。彼は、近代科学の成功によって生まれた客観主義的な世界観が、人間の精神的な価値や意味を軽視し、世界を無意味なものとしてしまう危険性を指摘しました。
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超越論的現象学における「美」
フッサールは、この危機を克服するために、超越論的現象学という新しい哲学を提唱しました。彼は、人間の意識経験そのものを対象とすることで、客観主義と相対主義の二項対立を超え、真の意味での「客観性」を獲得できると考えました。
フッサールは、「現象学的還元」という方法を通して、我々の意識に現れる現象を、あらゆる先入見や偏見から解放し、そのもの自体として捉え直そうとしました。彼は、この現象学的還元によって、我々が普段意識せずに前提としている「生の世界」を明らかにすることができると考えました。この生の世界は、客観的な世界でも主観的な世界でもなく、我々のあらゆる経験の基盤となる、より根源的な世界です。
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「明証性」としての美
フッサールにとって、超越論的現象学における「美」は、現象学的還元によって得られる「明証性」と深く関わっています。現象学的還元によって、我々はあらゆる先入見から解放され、現象をありのままに直観することができます。この直観は、主観的な解釈や推測に依拠するものではなく、現象そのものから直接的に与えられるものです。
フッサールは、この直観によって得られる明証性を、「明晰判明」という言葉で表現しました。明晰判明とは、対象が疑いようもなく、はっきりと認識される状態を指します。フッサールにとって、この明晰判明こそが、真の認識の基準となるものであり、超越論的現象学の目指すものでした。
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「充盈性」としての美
また、フッサールは、現象をありのままに直観することによって、我々は現象の「充盈性」を体験できると考えました。我々は、普段、対象を概念や記号によって抽象的に捉えがちですが、現象学的還元によって、対象を具体的な感覚や感情、イメージなどを含む、豊かな全体として捉え直すことができます。
この現象の充盈性は、我々に深い感動や美的体験をもたらします。フッサールにとって、美とは、単なる主観的な感情ではなく、現象そのものに宿る客観的な性質でした。