## フォークナーの響きと怒りの表現
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意識の流れ
フォークナーは『響きと怒り』において、登場人物たちの内面世界を描き出すために、意識の流れの手法を多用しています。特に、ベンジー、クェンティン、ジェイソンの3人の兄弟の章では、彼らの意識が時系列に沿ってではなく、記憶や連想によって自由に行き来するため、読者は彼らの混乱した内面を直接体験することになります。
例えば、ベンジーの章では、彼の五感を通して捉えられた断片的なイメージや感覚が、因果関係や時間的な秩序を持たずに提示されます。これは、知能に障害を持つベンジーの思考プロセスを反映したものであり、読者は彼の混乱と不安定な精神状態を共有することになります。
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時間操作
『響きと怒り』では、客観的な時間軸は存在せず、各章の語り手の主観的な時間認識によって物語が展開されます。過去と現在が入り混じり、回想が頻繁に挿入されることで、時間軸は複雑に断片化されています。
例えば、クェンティンの章では、彼の自殺に至るまでの1日の出来事と、過去のキャディとの思い出が交錯します。過去の出来事は、現在における彼の苦悩や絶望を際立たせる役割を果たすと同時に、読者に断片的な情報を提供することで、徐々に全体像を明らかにする効果も持っています。
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南部の言葉
フォークナーは、登場人物たちの出身地であるアメリカ南部の言葉を意識的に用いることで、作品の舞台となる南部の雰囲気や文化をリアルに描き出しています。
黒人使用人のディルシーの言葉遣いは、白人の登場人物たちとは明らかに異なり、当時の南部の社会構造や人種差別を反映しています。また、ベンジーの独特な言葉遣いは、彼の知能障害と幼児性を表現するだけでなく、他の登場人物たちとのコミュニケーションの困難さを象徴しています。
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象徴主義
『響きと怒り』には、様々な象徴的なイメージやモチーフが登場し、登場人物たちの心理状態やテーマを暗示しています。
例えば、キャディの匂いは、彼女の純粋さや喪失を象徴し、ベンジーにとって重要な意味を持ちます。また、時計は、時間に対する登場人物たちの異なる認識や、時間に取り憑かれたクェンティンの苦悩を表しています。