フォークナーの響きと怒りと言語
フォークナーの「響きと怒り」と言語
ウィリアム・フォークナーの小説「響きと怒り」(1929)は、その実験的な文体で知られており、特に時間と視点の扱いが特徴的です。この小説は、崩壊しつつある南部の貴族であるコンプソン家の物語を、家族の4人の異なるメンバーの視点から語っています。
意識の流れ
フォークナーは、「響きと怒り」の中で意識の流れという手法を駆使し、登場人物たちの思考や感情を直接的に表現しています。特に、知的障害を持つベンジーの章では、彼の断片的で非線形の思考が、読者にそのまま提示されます。
例えば、ベンジーの章では、過去と現在が混在し、言葉や文法も支離滅滅としています。これは、ベンジーが世界をどのように認識しているかを反映しており、読者は彼の混乱と無力感を追体験することになります。
時間操作
フォークナーは、「響きと怒り」において、時間を自由に操作することで、コンプソン家の歴史を断片的に描き出しています。各章は異なる時間に設定され、登場人物の記憶や回想によって、過去と現在が複雑に交錯します。
この時間操作は、読者に混乱と不安感を与える一方で、登場人物たちの心理的な時間と、客観的な時間のずれを浮き彫りにします。また、物語が進むにつれて、断片的に語られてきた出来事が次第に繋がり、コンプソン家の悲劇の全体像が明らかになっていきます。
南部の言葉遣い
フォークナーは、「響きと怒り」の中で、南部の言葉遣いを巧みに使用しています。登場人物たちの会話には、南部の独特の方言やスラングが散りばめられており、彼らの社会的な背景や時代性が鮮やかに表現されています。
また、フォークナーは、比喩や象徴を駆使した詩的な表現を用いることで、南部の風景や雰囲気を描き出しています。その一方で、黒人使用人のディルジーの章では、簡潔で力強い言葉遣いが用いられ、白人社会とは異なる視点が示されています。
沈黙と欠如
「響きと怒り」は、語られる言葉だけでなく、語られない言葉、つまり沈黙と欠如によっても特徴付けられます。登場人物たちは、過去のトラウマや抑圧された感情のために、重要なことを言葉にできないことがあります。
例えば、キャディの乱れた性生活や、ベンジーの言葉による表現の限界は、直接的には語られず、読者は登場人物たちの行動や沈黙から、その背後にあるものを推測するしかありません。
これらの要素によって、「響きと怒り」は、複雑で難解ながらも、非常に魅力的な作品となっています。フォークナーの革新的な言語と物語構成は、20世紀のアメリカ文学に大きな影響を与え、現代の作家たちにも読み継がれています。